Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別講演 エキスパートに聞く,今の旬
乳腺甲状腺 

(S162)

エキスパートに聞く,今の旬 超音波検査による甲状腺機能異常症のスクリーニング

Screening of thyroid dysfunction by thyroid ultrasound examination

志村 浩己

Hiroki SHIMURA

福島県立医科大学医学部臨床検査医学講座

Department of Laboratory Medicine, Fukushima Medical University

キーワード :

びまん性甲状腺疾患は,甲状腺機能異常を来たし,多彩な症状を呈するため,甲状腺疾患診療の主な対象となっている.しかし近年,TSH値のみ基準範囲外を示す潜在性甲状腺機能異常症についても,潜在性甲状腺機能低下症は動脈硬化及び心筋梗塞等のリスクファクターであるとともに,妊娠の成立・維持および児の精神神経発達にも影響する事が明らかになり,潜在性甲状腺中毒症も心疾患,骨粗鬆症のリスクが上昇することが示されている.しかし,それらの実態調査およびスクリーニングはいまだ不十分である.
我々は,本研究では人間ドッグの甲状腺超音波検診受診者のうち,甲状腺疾患の治療歴のない成人約2000名を対象者に甲状腺機能検査および自己抗体検査を実施した.その結果,顕性甲状腺機能低下症が0.5%に,顕性甲状腺中毒症が0.4%,潜在性機能低下症は4.7%,潜在性甲状腺中毒症は0.8%に認められ,顕性と潜在性を合わせると,甲状腺機能異常症の有病率は6.4%であった.また,抗甲状腺抗体の陽性率は,TgAbが16.0%,TPOAbが9.5%,TRAbが1.0%と非常に高率であった.
そこで我々は,びまん性甲状腺疾患を示唆する甲状腺サイズ異常,内部エコーレベル低下および不均質等のBモード超音波所見の判定による甲状腺機能異常症のスクリーニングの可能性について検討した.その結果,抗甲状腺抗体陽性+顕性機能異常症の検出感度は100%,抗体陽性+潜在性機能異常症の検出感度は68%にのぼった.一方,抗体陽性+機能正常を示す対象者の46%,抗体陰性+機能正常を示す対象者の21%においても何らかのびまん性所見を認めた.この結果から,Bモード超音波所見によるスクリーニングは甲状腺機能異常症を検出しうるが,多数の偽陽性を生じる事が明らかとなった.しかし,前向き研究として対象者の甲状腺機能を継続的にモニターした結果,Bモード超音波検査でのびまん性所見は,甲状腺機能低下症の発症予測に有効であることが明らかになってきている.
一方,バセドウ病はTSH受容体抗体により,また橋本病などの原発性甲状腺機能低下症は上昇するTSHにより甲状腺内の血管増生が刺激され,カラードプラ検査によりびまん性血流増加が観察される.我々は,成人においてBモード超音波像においてびまん性所見を認められた人間ドック受診者287名に対しカラードプラ検査も追加し,血流量を評価した.その結果,15名に高度血流増加を認め,そのうち4名はバセドウ病による甲状腺機能亢進症,8名は甲状腺機能低下症であり,甲状腺機能異常症は80%にのぼった.この結果から,甲状腺機能異常症の超音波検査によるスクリーニングにはBモードにカラードプラ検査を組み合わせる事が有効である事が明らかとなった.
福島県における県民健康調査「甲状腺検査」は甲状腺嚢胞および結節のスクリーニングを目的として超音波検査が行われている.震災後4年を経過した現在では,妊娠・出産を経験している検査対象者も増加しており,潜在性を含めた甲状腺機能異常症のスクリーニングの重要性が高まっているため,超音波検査による効率的な甲状腺機能異常症のスクリーニング方法の確立が急務である.本講演を機に今後の研究が発展する事を望みたい.