Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別講演 エキスパートに聞く,今の旬
消化器 

(S161)

エキスパートに聞く,今の旬 肝疾患の非形態診断に対する超音波の応用

Ultrasound-based non-morphological approach for liver disease

丸山 紀史

Hitoshi MARUYAMA

千葉大学大学院医学研究院消化器腎臓内科学

Department of Gastroenterology and Nephrology, Chiba University Graduate School of Medicine

キーワード :

本発表では,超音波からみた非形態学的診断の最近の動向を概説する.なお,超音波造影剤の適用外使用に際しては,IRBの承認と同意取得後に行った.
1.びまん性肝疾患の病態診断と鑑別
(1)肝静脈波形パターンの成因分析
肝静脈血流波形を規定する因子は明らかでない.慢性肝炎42例と肝硬変55例の計97例における検討では,単相波群(32.5±23.5 kPa)や二相波群(25.6±18.1 kPa)における平均肝弾性度(Fibroscan)が,三相波群(11.3±8.4 kPa, p=0.001)に比べて有意に高値を示し,肝静脈波形の成り立ちにおける肝硬度の関与が示された.
(2)肝硬変における消化管循環の検討
造影超音波において,流入路と流出路の血管内造影効果を経時的に観察をすることで,支配域臓器の血行動態を定量的に評価可能となる.192例(コントロール39,慢性肝炎72,肝硬変81)における上腸間膜動静脈でのソナゾイド®造影発現時間の差(消化管循環時間)の検討では,空腹時の消化管循環時間がコントロール(5.4±2.3秒)に比べ肝硬変(7.6±2.8秒,P<0.001)で延長していた.また,食餌による循環時間の反応性低下も確認され,消化管血流異常の実態が示された.
(3)肝内門脈所見からみた肝硬変と特発性門脈圧亢進症(IPH)の鑑別
肝硬変とIPHの鑑別は必ずしも容易ではない.組織学的に診断された肝硬変11例とIPH5例の検討では,ソナゾイド®造影で得られた三次元肝内門脈像は直接門脈造影像と極めて類似していた.また,両疾患の鑑別に対する感度,特異度,AUROCは,直接門脈造影では63.6%-100%,100%,0.9-1.0,三次元超音波では54.5%-80%,100%,0.96-0.97で,造影三次元超音波の有用性が示された.
2.肝硬変の診療支援
(1)門脈圧の推定
門脈圧は,肝硬変の重症度判定や長期経過・予後の予測に有用である.肝硬変62例とコントロール29例において,ソナゾイド®造影超音波での脾動脈造影発現から脾静脈最大造影に至る脾臓循環時間を検討すると,コントロール(8.9±2.3秒)に比べ肝硬変(14.6±3.0秒,p<0.0001)で有意に長く,肝静脈圧較差(HVPG,r=0.4573,p=0.0001)と有意な相関を認めた.またHVPG≥10 mmHgと>12 mmHgに対するAUROCは,それぞれ0.76,0.76と良好であった.このように,微小気泡の動態からみた脾臓循環の解析は,門脈圧の推定に極めて有用である.
(2)栄養治療の効果予測
分枝鎖アミノ酸製剤(BCAA)は,肝硬変に対する栄養治療の主軸であるが,その適応や効果予測には未だ議論もある.肝癌非合併肝硬変54例における検討では,肝弾性度(Fibroscan)が30.7 kPa(AUROC0.806)以下の症例においてBCAA治療による反応良好例が有意に多く認められた(p=0.026).すなわち,肝弾性度測定はBCAA治療の効果予測に有用で,高弾性度例では良好な効果が得られにくいと考えられる.
(3)長期予後予測
微小気泡が肝へ流入し末梢への充満に至る一連の動態は,肝循環を包括的に評価可能である.組織学的に診断された肝硬変32例において,肝動脈造影発現時間から肝実質最大輝度時間までの気泡充満時間を検討した.累積生存率は充満長時間群(>18秒;93.3%/1年,60.2%/3年)では充満短時間群(<18秒;93.3%/1年,93.3%/3年,p=0.049)群に比べ有意に低値であった.また累積肝癌発生率は,短時間群に比べ(6.3%/1年,6.3%/3年)長時間群(13.3%/1年,33.3%/3年,p=0.008)で有意に高率であった.このように,ソナゾイド®造影超音波における気泡動態の解析は,肝硬変例の長期経過予測に有用である.
【結語】
以上の研究成績は,肝疾患の非形態診断に対する超音波検査の有用性を示すものである.今後,超音波を軸とした肝疾患マネージメントの標準化が望まれる.