Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別講演 エキスパートに聞く,今の旬
基礎 

(S160)

エキスパートに聞く,今の旬 微小気泡によるソノポレーション =細胞周囲100ミクロンで起きていること=

Sonoporation in the presence of microbubbles =Things happening in 100μm around cells=

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科生命人間情報科学専攻

Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【はじめに】
通常細胞内に入らない物質を,超音波の照射により導入する技術をソノポレーションという.遺伝子や薬剤を細胞内に導入する安全性の高い技術として注目されているが,導入効率の向上が課題とされている.超音波造影剤の微小気泡を加えて超音波を照射すると効率が向上することから,キャビテーションに起因するが現象と考えられているが,詳細な機序は明らかにされていない.
【気泡と細胞の相互作用の直接観察】
我々は,細胞に微小気泡が接触した状態でパルス超音波を照射すると気泡の付着位置に膜損傷が生じることを世界に先駆けて報告し1),主にキャビテーションの機械的作用に注目してソノポレーションの機序解明を目指している.我々は,気泡と細胞の相互作用を直接観察することが機序の解明に最も有効と考え,種々の観察手法の開発を行ってきた.まず,気泡が細胞に膜損傷を与える機序の解明を目的に,最大1,600万コマ毎秒の速度で,直径数ミクロンの気泡と数十ミクロンの細胞を撮影できる高速度顕微観察装置を開発し,気泡の高速なふるまいが細胞に与える作用の直接観察を実現したし1).また,気泡の位置や大きさと細胞損傷や修復との因果関係を調べるために,微小気泡の位置を自由に制御できる光ピンセットを備えた顕微鏡システムを開発したし2).さらに,細胞の3次元的構造の時間的変化を評価できる共焦点タイムラプス観察を行い,ソノポレーションによって細胞が受けた損傷と導入の様子,修復の評価を行ってきた3)
【生体内ソノポレーション】
培養細胞と生体細胞では状態と能力に大きな差があると考えられる.付着細胞では,細胞が付着する足場が硬いと仮足が広く伸展し,柔らかいとほとんど伸展しないため,足場層の硬さは細胞形状と膜張力に違いを生じる原因となる.我々は,硬さの異なる足場層上に培養した細胞にソノポレーションを行い,細胞の損傷率が大きく変化することを報告した4).また,光ピンセットを用いて形状の異なる細胞を選択してソノポレーションを行い,球形細胞よりも伸展細胞で損傷率が増加することを示した5).また,硬さの異なる壁の近傍にある気泡の運動を高速度撮影し,硬い壁近傍の気泡は壁近傍に留まり,柔軟な壁近傍の気泡は壁から離れる傾向を確認した6).この結果は,生体内ソノポレーションで細胞損傷率を向上するには細胞と気泡の接着状態が重要な役割を果たすことを意味しており,高いソノポレーション効率を得るための方策として,特定の細胞に付着する標的気泡の重要性を示唆する結果と考えられる.
【まとめ】
細胞の周囲100ミクロン程度の範囲における気泡と細胞のダイナミクスを直接観察し,気泡と細胞が生じる相互作用を解明することが,ソノポレーション現象を理解し,効率向上を実現するために不可欠である.今後も様々な直接観察技術の開発を行い,生体内ソノポレーションの実現を目指して行く.
【参考文献】
1)Kudo N. Biophys. J. 2009,96:4866-4876.
2)Kudo N, et al. IEEE Ultrasonics Symp. Proc. 2013: 53-56.
3)吉松幸里他,日本超音波医学会基礎技術研究会資料2012(2):44-48.
4)Tanaka Y, et al. IEEE Ultrasonics Symp. Proc. 2013: 1777-1780.
5)Kudo N, et al. J Med Ultrasonics. 2014,41(4):411-420.
6)工藤光他,日本超音波医学会基礎技術研究会資料2014(3):22-25.