Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別講演 エキスパートに聞く,今の旬
産婦人科 

(S158)

エキスパートに聞く,今の旬 超音波診断技術革新の光と影

Ultrasound diagnostic technology innovation -Light and Shadow-

田中 守

Mamoru TANAKA

慶應義塾大学医学部産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecolgy, Keio University School of Medicine

キーワード :

出生前診断には,種々の検査法が存在し,それぞれ正確に施行して,運用される必要がある.例えば,妊娠初期においては,正確な超音波経腟断層法の施行による胎児頭殿長の計測と妊娠週数の確定および双胎妊娠の膜性診断が重要である.1絨毛膜性双胎では,双胎間輸血症候群が発症する必要があり,二絨毛膜二羊膜性双胎にくらべ厳重な管理が必要であり,初期から高度周産期医療機関で管理されることが望ましい.近年,妊娠初期の出生前診断にNTという胎児染色体異常のスクリーニング検査が導入されてきている.NTが認められた場合,その厚さによって胎児がダウン症である確率が上昇するが,元々の母体年齢に伴うダウン症の発生頻度に,NT肥厚に伴うリスク上昇の係数を掛け合わせることとなるため,母体の年齢によって胎児のリスクは異なることを理解する必要がある.また,このNTも数ミリ単位のものを計測するため慎重に計測する必要がある.
母体腹壁,子宮壁の中である母体の深部に存在し,心拍数が最高で180拍/分におよび,基本的には母体内では無症状である胎児心疾患に対して,胎児心エコー診断によって多くの疾患の診断が可能になってきている.超音波診断装置のデジタル信号技術の発達とともに,パワードプラ法やSTIC法を用いた新たな診断精度向上の試みがなされてきている.産科領域にも,マトリックスアレイのプローブが導入され2つの断面画像をリアルタイムで表示するBi-plane imagingが可能となり,3D,4D診断の新しい展開予想される時代に入ってきている.また,最新の機器ではHDlive flow機能を用いて妊娠初期からの3次元血流動態が観察可能となり,今まで教科書に載っていた心血管系の発生学が,3次元の“sonoembryology”という新しい学問が現実のものとなりつつある.さらにこれらの診断技術の向上により,例えば胎児胸水に対する胸腔‐羊水腔シャント留置術や胎児貧血に対する超音波ガイド下胎児輸血などの胎児治療が施されるようになってきており,超音波診断技術の向上が超音波ガイド下胎児治療に結びつくという,明るい周産期医学の進歩を実感することが出来るようになってきた.
一方,このような胎児診断技術の向上は,より早期の胎児異常の発見,診断に結びつく上,ソフトマーカーと言われる胎児染色体異常のスクリーニング検査としての一面も我々にもたらしてきている.これらの最新テクノロジーの導入は,胎児情報というブラックボックスの中の未知の情報が得られるという新しい水平線を見渡せるようになってきている反面,法的には一人の人格として認められていない胎児の情報が分かることによって命の選別につながる可能性がある.今後,様々な分野の方々の意見を聞き,倫理的な側面を充分に検討しながら,新しい技術の成果を導入する必要があると思われる.