Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別講演 エキスパートに聞く,今の旬
泌尿器 

(S153)

エキスパートに聞く,今の旬 前立腺に対するエラストグラフィーの位置付け

Erastgrahy for Diagnosis of Prostatic cancer

山本 徳則1, 沖原 宏治2, 堤 雅一3, 後藤 百万1

Tokunori YAMAMOTO1, Koji OKIHARA2, Masakazu TSUTSUMI3, Momoazu GOTOH1

1名古屋大学大学院医学系研究科泌尿器科, 2京都府立医科大学泌尿器科, 3日立総合病院泌尿器科

1Urology, Nagoya University of Medicine, 2Urology, Kyoto Prefectural University of Medicine, 3Urology, Hitachi General Hospital

キーワード :

前立腺は生体の深部に位置し,その状態を評価するには古くから直腸診の重要性は,画像診断機器が進歩した今日においても変わっていない.超音波エラストグラフィーは非侵襲的な方法で組織の硬さの違いを表示する技術であり,1991年に最初に報告された.組織インピーダンスの違いに基づいたグレースケール表示と違い,エラストグラフィーは深いところの「触診」を可能にし,組織の比較的な「硬さ」を表示することができる.今回は,前立疾患の診断におけるエラストグラフィーの有用性について,1)癌診断と2)排尿障害について述べる.
エラストグラフィーは,基本的に用手的にトランスデューサーから組織に対して圧力をかけ,解除することによって組織の変形率すなわち歪分布を解析し,画像化を行う超音波画像診断モードである.その特性を生かし前立腺に対するエラストグラフィーの位置付けについて,前立腺癌,排尿障害につき報告する.
1)癌診断
エラストグラフィーでは,正常の前立腺は均一の歪み分布(strain)を示す.前立腺全体は緑色を示す.通常は前立腺周囲の脂肪組織は赤い辺縁として表示される.大きな前立腺(正常もしくは前立腺肥大症)では,時に不均一な(heterogeneous),しかし対称的なモザイク状(mosaic)もしくは線状(striated)の緑と青の混合として,癌は周囲組織よりも硬い青い腫瘤として認められる.
2004年からElastographyを前立腺癌診断に応用し,その妥当性や有用性を検討してきた.51例の病理摘出検体とElastographyとの比較結果では,15例(29%)がすべてのElastographyの動的画像(Elastographic moving image:EMI)が病理切片と一致し,28例(55%)が一部一致した.これは一般的に言われている経直腸超音波(Tran- srectal Ultrasonography:TRUS)B-mode画像での検出率(40%前後)に比べると画期的な一致率である.また,Elastographyの一致率はDREで検出しにくい前立腺腹側ほどその検出率が良いことが特徴であった.さらに,PSA高値患者の前立腺生検スクリーニングにおいても,Elastographyの有用性は確認され,311例のスクリーニングにおいて,DRE,TRUSの感度がそれぞれ,37.9%,59%に対して,Elastographyの感度は72.6%と前立腺癌診断における有用性が証明された.
2)排尿障害
前立腺尿道部の経時的な開口動態に組織学的な弾性変化をみる目的で,組織弾性イメージング機能を用いて,排尿初期から終了にいたるまでの,前立腺部尿道の各sectionの開大径のdynamic changeの定量的解析結果と,弾性イメージ(ひずみ値)の対比を行った.前立腺肥大症のelastic gradeは,正常例と対比して,高値の部分の比率が増加し,前方繊維筋脂肪組織群に相当する部分は正常例と同様にひずみ値が低値を示していたが,腺腫部分のひずみ値はheterogenous patternを示さず,比較的層別化しており,尿道部から末梢側に移行するに従い,ひずみ値は高値を示した.以上より,排尿障害の原因の一因として,尿道部ならびに,腺腫部分のひずみ値の違いが関与していることが示唆された.
エラストグラフィーはその臨床的有用性が十分に証明されたとはいえないが,前立腺癌検出における有用性を再確認させ,排尿障害を硬さの面から有用性を明らかにした.今後前立腺エラストグラフィーは硬さを半定量的に評価しうる臨床検査として位置付けられ,さらなる発展が期待される.