Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

会長講演
会長講演 

(S151)

「超音波と共に歩み,これからも歩む:一歩前へ」

Living with the ultrasound, and going up with the ultrasound: One Step Ahead

住野 泰清

Yasukiyo SUMINO

東邦大学医療センター大森病院消化器内科

Gastroenterology and Hepatology, Toho University Omori Medical Center

キーワード :

超音波は「目で見る聴診器」である.先達は素晴らしい表現をなさったものである.本会のプログラムをご覧になっておわかりいただけると思うが,超音波は昨今,ほぼすべての診療科で使われている.一方聴診器は診察手技の基本として,ほとんどの医師が毎日お世話になっている診察ツールである.「目で見る聴診器」は,日常臨床の場で非侵襲的かつ手軽に基本的検査として実施できかつ,聴診器ほどにものを言い,いやそれ以上に診断へ結びつく情報をその場で与えてくれる超音波検査に対しての,大きな賞賛を込めた呼称と理解している.
私は1979年に超音波検査を自分でやるようになったが,ある程度できるようになってからこの呼称を知った.痛く感動した.超音波検査はその少し前に「誰でも胆石が見られる」をキャッチフレーズにしたことがあった.それは違うと思った.そんなに簡単ではないし,精度や客観性を得るためには,かなりの努力を必要とすることを実感していたからである.しかし,聴診器にたとえるのは共感した.聴診器は耳と同時に耳と耳の間で聴け,というのが先輩の教えであった.結局完全に習得はできていないが,それなりに使えるようになると役に立つことがひしひしとわかってくる.超音波もまさにその通りである.目で見ると同時に目の奥でも診る.ロマンを感じた.そして,のめり込み,今に至っている.ただ,「目で見る聴診器」は,腹部・消化器分野で超音波検査の布教活動をするには少し具体性を欠き,今の風潮には乗り切れない.そこで最近私は勝手ながら「絵の出る触診装置」と表現することにしている.
私がライフワークにしているびまん性肝疾患の超音波診断は,地味な世界である.超音波で診断確定に至ることは難しいからである.たとえ超音波で診断できるとされている脂肪肝であっても,実際の患者さんで肝障害の原因がそれだけかと問われると,言葉に詰まる.しかし,患者さんの役に立つ情報は山ほど得ることができる.それも初診時直ちに,侵襲なしで,である.昔,肝疾患の患者さんを受け持つと必ず先輩から質問されることは「硬さは?」であった.それを知るだけで,慢性肝疾患や急性肝障害の程度(ステージ)を判断でき,病態把握や診断に至る道のりを大きく短縮することができるからである.それにも超音波は役だった.手で触れない肝臓でも,探触子で押せば変形し,その具合でおよその硬さが判定できた.それが今ではエラストグラフィである.
痛いところに探触子を当てれば,痛んでいる臓器がたちどころに判明する.膿がたまっていれば,それを見ながら穿刺ドレナージできる.腫瘍があれば,それを見ながら安全に穿刺診断や治療ができる.気泡性の造影剤を注射すれば,病変の血流動態がリアルタイムに観察でき,さらにさまざまな情報を得ることができる.この造影剤を担体として薬を病変部に運び,溜まったところで気泡を割れば,drug delivery systemとしての応用もできそうである.
「絵の出る触診装置」,これからも面白そうである.一歩前へ.