岩崎 晶夫¹, 竹川 英宏¹, 鈴木 圭輔⁴, 岡部 龍太², 豊田 茂³, 岡村 穏¹, 沼尾 文香⁴, 浅川 洋平¹, 高田 悦雄⁵, 平田 幸一⁴

Akio IWASAKI¹, Hidehiro TAKEKAWA¹, Keisuke SUZUKI⁴, Ryuta OKABE², Sigeru TOYODA³, Madoka OKAMURA¹, Ayaka NUMAO⁴, Yohei ASAKAWA¹, Etsuo TAKADA⁵, Koichi HIRATA⁴

¹獨協医科大学神経内科脳卒中部門, ²公立阿伎留医療センター内科, ³獨協医科大学心臓・血管内科, ⁴獨協医科大学神経内科, ⁵獨協医科大学超音波センター

¹Stroke Division, Department of Neurology, Dokkyo Medical University, ²Department of Internal Medicine, Akiru Municipal Medical Center, ³Department of Cardiovascular Medicine, Dokkyo Medical University, ⁴Department of Neurology, Dokkyo Medical University, ⁵Center of Medical Ultrasonics, Dokkyo Medical University

キーワード :

【はじめに】
頸部回旋時に椎骨動脈が狭窄あるいは閉塞を生じ，椎骨・脳底動脈系の虚血症状を呈するものはbow hunter’s strokeと呼ばれる1）．確定診断には頸部回旋時における脳血管撮像や頭頸部のmagnetic resonance angiography（MRA）がなされる．頸動脈エコー検査は非侵襲性であり，簡便に検査が出来ることからセクタ型探触子2）による後頭蓋窩からの椎骨動脈の観察などが行なわれる．通常bow hunter’s strokeは片側の椎骨動脈の血行不全が多いが，同時に両側の血行不全を来す事もある．
【症例】
血管障害の危険因子のない23歳女性．嘔気や複視といった椎骨脳底動脈領域の脳梗塞が3回出現し，当院紹介となった．初診時の理学的所見は血圧の左右差はなく，頸部血管雑音，心雑音も聴取しなかった．神経学的所見では後遺症の右上下肢の異常感覚を認めた．血液生化学検査で大きな異常はなかった．頭部magnetic resonance imagingでは橋，両側小脳半球，左視床といった後方循環系に脳梗塞が存在したが，MRAでは特に異常所見は認めなかった．経胸壁心エコー検査ならびに経食道心エコー検査では壁運動障害や卵円孔開存症はなかった．頸動脈エコー検査は臥位で頭位を観察部位と反対側に回旋して施行した．本検査では動脈硬化所見は認めず，血流波形も正常であった．しかし，頸部を右へ回旋した状態で右椎骨動脈を観察すると拡張末期血流が消失し，さらに左回旋時の左椎骨動脈の血流波形においても拡張末期血流が消失した．対側の椎骨動脈の血流波形変化は認めず，同側の片側性bow hunter’s strokeが両側に存在すると考え，脳血管撮像を施行した．脳血管撮像所見は頸動脈エコー検査と同様に，回旋と同側の椎骨動脈がC1-2移行部で閉塞した．現在，抗凝固薬を使用し再発はしていない．
【考察】
若年性脳卒中の原因として，心原性脳塞栓症や椎骨動脈解離が多いが，原因不明も4.5から11％存在する．Bow hunter’s strokeは通常の検査では診断が困難であり，頸部回旋時の血流状態を確認する必要がある．本症例は後方循環系の脳梗塞を再発しており，椎骨脳底動脈の異常を推察したため頸動脈エコーで診断し得た．通常，経頭蓋エコー検査による椎骨動脈の観察は比較的容易であるが，頸動脈エコー検査においても，リニア型探触子やセクタ型探触子により観察が可能であるため，通常の頸動脈エコー検査に頸部回旋での観察を行なうことも必要である．
【結語】
椎骨脳底動脈の循環不全を疑う症例には，頸部回旋による椎骨動脈の観察が必要である．
【参考文献】
1）Sorensen BF. Bow hunter’s stroke. Neurosurgery 1978;2（3）:259-261.
2）鈴木ひろみ，本多正徳．頸部血管超音波検査が有用であった頭蓋頸椎移行部奇形と椎骨動脈走行異常に伴うbow hunter’s strokeの1例．Neurosonology 2010;23（1）:17-22.