Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般ポスター 頭頸部
頭頸部

(S774)

甲状腺腫瘍との鑑別を要した咽頭食道憩室(Zenker憩室)の2例

Two cases of Zenker’s Diverticulum discriminated from thyroid tumor

油井 南美3, 小野田 教高1, 森田 仁平2, 茨木 雅代3, 荒川 奈緒美3, 前島 寛子3, 吉田 貴典3

Nami YUI3, Noritaka ONODA1, Jinpei MORITA2, Masayo IBARAKI3, Naomi ARAKAWA3, Hiroko MAESHIMA3, Takanori YOSHIDA3

1埼玉石心会病院内分泌代謝内科, 2森田クリニック外科, 3埼玉石心会病院生理検査部門

1Division of Endocrinology and Metabolism, Saitama-sekishinkai Hospital, 2Department of Surgery, Morita Clinic, 3Division of Physical Examination, Saitama-sekishinkai Hospital

キーワード :

【はじめに】
近年,多くの医療機関で頸動脈超音波検査が行われ,その際様々な甲状腺疾患が発見される契機となっている.今回,はじめ甲状腺腫瘍が疑われ,精査の結果食道憩室と診断された2例を経験した.
【症例1】
72歳女性.高血圧,脂質異常症で近医通院中.頸動脈エコー施行時に,甲状腺の腫瘍を疑われて紹介受診.甲状腺結節は触知せず.血液検査では,TSH 1.84μIU/ml, FT3 3.30pg/ml, FT4 0.96ng/dl, Tg 15.1ng/ml, TgAb<0.3U/mlであった.超音波検査で,甲状腺左葉裏面に,30.1x19.1x11.6mm大の,境界明瞭,内部エコー低,不均質な腫瘤影あり,内部に多数の高エコーが観察された(写真).穿刺吸引細胞診で,多数の細菌,食物残渣が認められ,甲状腺由来とは考えにくい結果を得た.
【症例2】
76歳男性.高コレステロール血症で内服治療中.近医で頸動脈エコー施行時に甲状腺に腫瘍を指摘され紹介受診.触診では甲状腺は触れず.血液検査では,TSH 2.511μIU/ml, FT3 3.04pg/ml, FT4 1.10ng/dl, Tg 11.5ng/ml, TGHA<100,MCHA<100.超音波検査で,甲状腺左葉を背側から押し上げるような形状,31.1x19.1x18.6mm大の,境界明瞭,境界部を含め強い高エコーを有する腫瘤影あり.形状から食道憩室を疑い,頸部CT検査にて,気管左側に,食道憩室を疑うcavityを確認した.
【考案】
食道憩室は全消化管憩室の中でも発生頻度は約1%であり,その中で咽頭食道憩室(Zenker憩室)は10%程度と,比較的稀な疾患である.Zenker憩室は,咽頭食道後壁の下咽頭収縮筋斜走部と輪状咽頭筋横走部との間に形成される,解剖学的脆弱部が,内圧の上昇で生じた憩室である.高齢者に発見されることが多い.自覚症状で多いのは,逆流,嚥下困難,流涎,体重減少,咳嗽,口臭,誤嚥性肺炎,発声障害等がある.食道造影検査や上部消化管内視鏡検査で確定診断される.治療法は,自覚症状が軽いものに関しては,食事療法や薬物療法も可能ではあるが,食道憩室は進行性に増大する傾向があり,早期の手術を勧める意見もある.
Zenker憩室の超音波の特徴は,甲状腺との境界が明瞭で,比較的厚い被膜様エコーを有し,内在する空気を反映した高エコーが観察されることである.当科で経験した2例は,いずれも症状は軽微で,頸動脈エコーで偶発的に指摘され,診断に至った.
甲状腺超音波検査実施にあたっては,稀ではあるがZenker憩室も常に鑑別すべき疾患として念頭に置く必要があった.