盛田 幸司¹, 内田 香介², 檀原 尚典², 栗原 鮎美², 江戸 直樹^{2, 3}, 貴田岡 正史⁴

Koji MORITA¹, Kosuke UCHIDA², Hisanori DANBARA², Ayumi KURIHARA², Naoki EDO^{2, 3}, Masafumi KITAOKA⁴

¹帝京平成大学ヒューマンケア学部, ²防衛医科大学校内分泌代謝内科, ³防衛省人事教育局医務室, ⁴公立昭和病院内分泌代謝内科

¹Faculty of Health Care, Teikyo Heisei University, ²Department of Endocrinology and Metabolism, National Defense Medical College, ³Bureau of Personnel and Education, Ministry of Defense, ⁴Department of Endocrinology and Metabolism, Showa General Hospital

キーワード :

【症例】
46歳男性．
【現病歴】
生来健康な男性（糖尿病等，易感染性を来たす疾患は認めず）．受診3日前より悪寒戦慄，発熱が出現した（37.7℃から39.1℃）．頸部の痛みは自覚しなかったが，前頸部腫大に気付いた．受診後，抗菌薬投与も改善なく，感染源として頸部を疑い，3日後に甲状腺超音波検査を施行した．
【身体所見】
甲状腺は全体に腫大しているが，左側が目立つ．圧痛は乏しい．頸部皮膚の発赤なし．血圧136/84 mmHg，脈拍99 /分で整，体温37.7℃．
【検査所見】
採血検査：WBC 17400 /μL（Neutro 81.1％），血沈41mm（1時間値），CRP 14.0 mg/dL，TSH 0.51μIU/mL，FT3 2.81 pg/mL，FT4 0.94 ng/dL，Tg＞1000 ng/mL，抗Tg抗体陰性．甲状腺超音波断層検査：甲状腺両葉に腫瘤・嚢胞が多発し（腺腫様甲状腺腫），左葉には24.7×37.8 mm大の嚢胞様病変を認め，内部に変性した実質を認める．また，嚢胞壁は肥厚し，正常甲状腺との境界も一部不明瞭であった（図参照）．
【経過】
同病変より穿刺し，約10 mLの内容液を排出．内容液は肉眼上，白濁〜膿状であり，塗抹では白血球（3＋）．細胞診はClassⅡで，細菌培養検査では抗菌薬開始後の採取だったためか，陰性であった．穿刺後，直ちに解熱を認めた（抗菌薬は以後数日継続）．以後，同部位は目立った再腫大は来たさず，腺腫様甲状腺腫として経過を観察中である．
【考察】
圧痛に乏しい点は典型的ではないが，経過からは甲状腺嚢胞内感染と考えた．元々甲状腺に腫瘤性病変が存在する場合，別の感染病巣から血行性に感染が波及することもあるが，本症例では感染由来を特定できなかった．本症例の嚢胞の超音波所見（壁肥厚等）は，感染を示唆する特徴のひとつと考えられる．圧痛が乏しくとも，超音波所見を丁寧に観察することで，診断・加療を成功裏に導くことができた症例であった．