Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般ポスター 産婦人科
産科(その他)

(S753)

妊娠甲状腺中毒症を伴った黄体化過剰反応の1例

A case of Hyperreactio Luteinalis with Gestational Thyrotoxicosis

植栗 千陽1, 成瀬 勝彦1, 小池 奈月1, 赤坂 珠理晃1, 山田 有紀1, 重富 洋志1, 大井 豪一1, 佐道 俊幸2, 小林 浩1

Chiharu UEKURI1, Katsuhiko NARUSE1, Natsuki KOIKE1, Jyuria AKASAKA1, Yuki YAMADA1, Hiroshi SHIGETOMI1, Hidekazu OI1, Toshiyuki SADO2, Hiroshi KOBAYASHI1

1奈良県立医科大学産婦人科, 2大阪暁明館病院産婦人科

1Obstetrics and Gynecology, Nara Medical University, 2Obstetrics and Gynecology, Osaka Gyoumeikan Hospital

キーワード :

【緒言】
黄体化過剰反応hyperreactio luteinalis(以下HL)は,高hCG状態により引き起こされる両側多嚢胞性病変であり,絨毛性疾患や妊娠(特に多胎妊娠,胎児水腫)に伴って生じる稀な疾患である.hCGによる甲状腺刺激活性が強い場合は妊娠甲状腺中毒症Gestational Thyrotoxicosisをきたすことがあるが,これらを合併した報告はほとんどない.今回我々は妊娠甲状腺中毒症の経過観察中にHLを診断し,保存的に妊娠管理を行った1例を経験したので報告する.
【症例】
20歳代,初産婦.既往歴・家族歴に特記事項なし.排卵誘発剤の使用により妊娠成立した.妊娠初期より高血圧と妊娠悪阻を合併するため,甲状腺機能検査を施行され,TSH0.01μIU/ml,fT3 4.27pg/ml,fT4 1.65ng/dlと機能亢進を認めたため,妊娠13週1日に当院へ紹介となった.TSH<0.03μIU/ml,fT3 7.30pg/ml,fT4 2.37ng/dlと甲状腺機能はさらに上昇していたが,血中hCG 225782mIU/mlと高値を示し,抗TSH受容体抗体は陰性で,超音波検査で甲状腺腫大を認めなかったことから,妊娠甲状腺中毒症と診断し,まずは無投薬で経過観察を行った.甲状腺機能は改善傾向を示したが,妊娠18週においても血中hCG 95704mIU/mlと高値を示し,高血圧と頻脈もあることから無機ヨードの内服を開始した.妊娠22週には甲状腺機能は正常化し,血圧上昇もなく全身状態は安定していたため無機ヨードの内服を中止し,以降は再燃なく経過した.また,妊娠18週の超音波検査で両側卵巣は多嚢胞性に腫大し,‘spoke-wheel’の像を呈していた.腹水の貯留はなく,臨床経過と超音波検査画像の特徴より,HLの可能性を考えて経過観察を行った.妊娠19週には右卵巣78mm,左卵巣82mmと増大傾向を認めたが,以降は変化なく経過した.妊娠32週に妊娠糖尿病を発症し,妊娠34週から分娩直前までインスリン治療を行った.妊娠38週5日に経腟分娩に至り,3088gの男児を得た.産褥2か月で両側卵巣はほぼ正常大に縮小し,甲状腺機能や血糖値も正常であった.
【結語】
妊娠甲状腺中毒症やHLはhCGの正常化に伴い自然軽快するため,無治療で経過観察できることが多い.稀な疾患であるが,妊娠中に卵巣の両側多嚢胞性病変を認めた場合にHLを念頭においたことで,不必要な開腹術を避けることができた.近年,これらの病態としてhCGの量的な影響だけでなく,TSH受容体やFSH受容体の変異等の報告もあるため,今後の妊娠において再発の可能性があることを考慮し管理する必要がある.