Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般ポスター 産婦人科
異常妊娠/婦人科疾患

(S750)

帝王切開瘢痕部妊娠の2例:妊娠継続の選択肢は許されるか?

Two case of Cesarean Scar Pregnancy:The choice of continuation of pregnancy

山田 有紀1, 2, 成瀬 勝彦1, 植栗 千陽1, 重富 洋志1, 赤坂 珠理晃1, 金山 清二1, 吉田 昭三1, 大井 豪一1, 堀江 清繁2, 小林 浩1

Yuki YAMADA1, 2, Katsuhiko NARUSE1, Chiharu UEKURI1, Hiroshi SHIGETOMI1, Juria AKASAKA1, Seiji KANAYAMA1, Shouzou YOSHIDA1, Hidekazu OI1, Kiyoshige HORIE2, Hiroshi KOBAYASHI1

1奈良県立医科大学産科婦人科学教室, 2大和高田市立病院産婦人科

1Obstetrics and Gynecology, Nara Medical University, 2Obstetrics and Gynecology, Yamatotakada Municipal Hospital

キーワード :

【緒言】
帝王切開瘢痕部妊娠(Cesarean Scar Pregnancy,CSP)は頸管妊娠に似た異所性妊娠として可及的早期(妊娠8週未満)に人工妊娠中絶を行うことで子宮を温存し大量出血を避けられるとされる.他方,近年周産期医療において問題となる子宮体部下部の既往帝王切開創における前置癒着胎盤のうち,CSPが初期に確認されていないものが存在する可能性が否定できない.今回我々は,妊娠最初期にCSPを疑いながら,その後の胎嚢発育からCSPを一旦否定し,後に既往帝王切開創部の前置癒着胎盤となるも生児を得た症例を経験した.さらに,CSPを妊娠のごく初期に確認した高齢妊娠の症例について,この経験から妊娠を継続する選択肢を考慮した説明を行ったので,共に報告する.
【症例1】
28歳,1回経産婦.前回妊娠は7年前であり,骨盤位のため選択的帝王切開術を施行されている.今回,妊娠4週に近医産婦人科を受診し,胎嚢が帝王切開創部に存在するCSPの可能性を指摘された.しかしその後,胎嚢が拡大して子宮腔内の方向に発育したため,創部との関連が確認できなくなり,そのまま妊娠を継続することとなった.妊娠22週時に超音波で前置癒着胎盤を疑い高次施設に紹介された.その後外来にてフォローされていたが,妊娠28週時に警告出血を認め緊急入院した.MRIでは子宮筋層の高度な菲薄化と癒着胎盤の疑いが指摘されたが,穿通や膀胱壁への浸潤は否定的であった.母体ステロイド投与と子宮収縮抑制剤の投与,安静にて経過を観察したが,妊娠32週時に大量の出血があり,直ちに子宮底部冠状切開による帝王切開術を施行した.1,858gの女児をアプガースコア7点(1分)/9点(5分)で娩出し,直ちに新生児科医により蘇生が行われた.胎盤は強固に創部に付着して離せず(但し術後病理診断で癒着胎盤所見は確認できなかった),子宮口からの出血も持続していたため直ちに単純子宮全摘術を行った.術後は輸血を必要としたものの,経過は良好にて退院した.また児については生後6ヶ月まで発達に異常を認めていない.
【症例2】
39歳,2回経産婦.骨盤位(3年前)と既往帝切後妊娠(1.5年前)のため帝王切開の既往がある.無月経を主訴に妊娠4週6日に当科を受診し,超音波下にCSPを認めた.その後胎嚢は子宮腔内に向かって増大し,6週2日の段階でCSPの特定は困難な所見となったが,初期の所見からCSPの診断とした.これまで一般的とされてきた人工妊娠中絶処置の他に,症例1の経験を念頭においた妊娠継続の選択肢についても説明を行い,夫婦で熟慮の結果妊娠継続を断念することを選択されたため,妊娠7週2日に胎嚢の穿刺をおこない,残存絨毛組織に対して1クールのメソトレキサート全身投与を行った.経過中に大量出血は認めず,以降良好に経過している.
【考察】
妊娠5〜6週以前に診断されていないCSPは見逃される可能性が大きく,帝王切開創部の前置癒着胎盤として妊娠中期以降に高次施設に紹介される例が多い可能性がある.このことは,必ずしも全てのCSPが妊娠継続不可ではなく,生児を得られる可能性があるとも言える.症例1のように妊娠経過中の出血や帝王切開時子宮全摘術が高率に,妊娠経過中の子宮破裂の報告もあり,非常にリスクが高いことは間違いないが,特に高齢妊娠での貴重児などで妊娠継続を強く希望される場合には,カップルへの十分な説明と同意の上で中絶せず管理する選択肢も許される可能性がある.