Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般ポスター 消化器
肝臓1

(S732)

超音波診断上興味ある鏡像(Chagall phenomenon)について

Chagall phenomenon: A diagnostic pitfall of mirror image

本郷 麻依子1, 長沼 裕子2, 石田 秀明3, 渡部 多佳子3, 小松田 智也3, 八木澤 仁3, 大山 葉子4, 長井 裕5

Maiko HONGO1, Hiroko NAGANUMA2, Hideaki ISHIDA3, Takako WATANABE3, Tomoya KOMATSUDA3, Hitoshi YAGISAWA3, Yoko OHYAMA4, Hiroshi NAGAI5

1市立横手病院外科, 2市立横手病院消化器科, 3秋田赤十字病院超音波センター, 4秋田組合総合病院臨床検査科, 5NGI研究所

1Department of Surgery, Yokote Municipal Hospital, 2Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, 3Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 4Department of Medical Laboratory, Akita Kumiai General Hospital, 5New Generation Imaging Laboratory

キーワード :

我々はこれまで肝背側にみられる鏡像に関し多くの検討,特にその歪の状態,を本学会で報告してきた.今回は横隔膜近傍に位置する肝腫瘍像がその鏡像とあたかも癒合するような現象(便宜上,ここでは,Chagall現象(下記参照)と呼ぶ)に関し検討し若干の知見を得たので報告する.この現象は一見病変が横隔膜を超えて肺側に浸潤しているような所見を呈することから診断面での注意が必要でありしっかりした認識が必要と思い報告する.使用診断装置:東芝社製:AplioXG, 500.GE社:LogiqE9,日立アロカ社製:Ascendus, Preilus, Prosoundα10.
【対象と方法】
過去2年間に施行した約4万件の肝超音波検査中,a)右上腹部肋間走査で病変の実像と鏡像が明瞭に観察されたS7, S8,の72病変を対象に,上記のChagall現象の出現頻度を検討した.病変の内訳は,嚢胞15例,HCC14例,血管腫18例,転移25例,である.
【結果】
この現象の発生率は2/72(2.8%)と低率であったが,その2病変は石灰化を伴った大腸癌からの肝転移の場合で,他の病変(のう胞,血管腫,HCC,大腸癌以外からの転移)ではみられなかった.
*Chagall,Marc(1887-1985)二人の恋人たちが空中で癒合するような幻想的な絵画を多数制作した絵画の巨匠.
【まとめと考察】
肝背側にみられる鏡像に関してはこれまで多数の報告があり,その出現パターンについてもかなり細部まで認識されるようになってきている.主なものとして,a)鏡像は実像に比して1.5-2倍程度膨張した形で表示されることが多い,b)一個の実像に対し数個の鏡像が出現することがある,c)実像と鏡像は視野内に同時に表現される場合もあるが,交互に表示されるなどの,非同時表示の場合(ウインク現象)もある,などが挙げられる.しかし,どの場合でも実像と鏡像は分離して表示されており,かなり近接した場合でも両者の分離は可能であった.それは,主として,実像と鏡像の間に横隔膜(複合体)が明瞭な一本の線状高エコーとして存在するためと考えられる.そのため,実像と鏡像が癒合して表示されるためには,この強い線状エコーが不明瞭になることが,今回のChagall現象出現のための条件となる.この条件が満たされることは臨床上まれである事は,今回の検討でもChagall現象の出現頻度がきわめて低率であることがそれを示している.しかし,同時に,この低率さは,逆に,この現象が出現した場合その状況を検討することが超音波画像の成り立ちを考える上で重要な意味を持つことも示している.今回の検討で示されたように,Chagall現象は石灰化を伴った大腸癌からの肝転移の場合のみにみられ他の病変(のう胞,血管腫,HCC,大腸癌以外からの転移)ではみられなかったことから,a)横隔膜に接した転移巣とその鏡像が接近していること,という条件に加え,b)転移巣内部の多数の小石灰化が多数の強い反射体となり,これが超音波上実際以上に大きな点状〜線状高エコーとして病巣内部に表示される,ため,通常明瞭な線状エコーである横隔膜エコーが不明瞭となり易い状態を生んでいるものと推定される.さらに,c)石灰化を含むため病変内部の音速が不均一となり横隔膜エコーが歪んで表示される,などの条件が加わることも考えられ,これらが相まって実像と鏡像が癒合し易い条件がそろったものと思われた.
【まとめ】
超音波診断上注意が必要な鏡像であるChagall現象に関し,発生機序の推定も加え報告した.今後更なる掘り下げた検討が期待される.