Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 総合・その他
総合・その他

(S705)

造影超音波が診断および経過観察に有用であった腹直筋血腫の1例

Hematoma of the rectus abdominis muscle diagnosed with contrast-enhansed ultrasonography; a case report

福間 輝行1, 福原 崇之2, 河岡 友和2, 相方 浩2, 茶山 一彰2

Teruyuki FUKUMA1, Takayuki FUKUHARA2, Tomokazu KAWAOKA2, Hiroshi AIKATA2, Kazuaki CHAYAMA2

1広島大学病院生体検査部門, 2広島大学病院消化器・代謝内科

1Department of Antemortem Inspection, Hiroshima University Hospital, 2Department of Gastroenterology and Metabolism, Hiroshima University Hospital

キーワード :

【はじめに】
腹直筋血腫は腹直筋鞘内に血腫を生じ,急性腹症様で発症する比較的稀な疾患である.確定診断がつかず外科的手術を施行される例も少なくない.また,抗凝固療法中の患者や高齢者に多く発症し,診断が遅れると致命的となることもある.今回我々は造影超音波検査が診断および経過観察に有用であった腹直筋血腫の1例を経験したので報告する.
【症例】
86歳女性
【主訴】
右下腹部痛
【現病歴】
1992年頃,慢性C型肝炎と診断.2002年に肝細胞癌初発.以後,肝動脈化学塞栓術(TACE)計5回,経皮的エタノール注入療法(PEIT)を計3回施行.2010年に腹水の増悪を認めたため当科入院となった.同日夕方に突然右下腹部痛が出現し,同部位の緊満感が著明となった.
【既往歴】
狭心症(85歳時に冠動脈バイパス術施行後,ワーファリンおよびバイアスピリン内服).
【現症】
右下腹部疼痛,緊満感著明
【経過】
腹痛精査目的のため,腹部超音波検査を施行.腹部超音波検査上,右腹壁内に76×32mmの低エコーと高エコーの混在する紡錘形の腫瘤を認め,カラードップラー上では,内部に血流を認めた.続いてソナゾイド造影施行したところ,腫瘤内部への造影剤漏出が描出された.腹直筋血腫と診断し,造影CTを施行したところ同様に内部への造影剤漏出を認めた.活動性の出血を認めたため,血管造影検査を施行.血管造影時には,明らかな造影剤漏出は認めなかったものの,下腹壁動脈が出血源と考え,右筋横隔動脈と下腹筋動脈分枝部よりジェルパートで塞栓を行った.第3病日にfollow upの造影超音波検査を施行したところ,内部への造影剤漏出ないことを確認した.その後は保存的加療で軽快された.
【考察】
腹直筋血腫は上・下腹壁動静脈の破綻により生じる稀な腹壁の血腫である.誘因として咳,くしゃみなどの急激な腹直筋収縮・進展で起こるものが多い.危険因子として,抗凝固療法や高血圧,高齢者や女性などが挙げられる.本症例においては,明らかな誘因はなく生じたものの,抗凝固療法中であったことが危険因子と考えられた.
画像診断においては,超音波検査で腹直筋内に嚢胞性または充実性などの様々な腫瘤像を呈し,経時的に内部エコーが変化することが報告されている.鑑別疾患として急性腹症などが挙げられるが,蠕動運動や呼吸性変動で病変の存在部位が腹腔内か否かは判断可能である.保存的加療が一般的であるが,正確な診断がつかないまま開腹手術になる例も多いため,腹直筋血腫を念頭においた慎重な診断が必要であると考える.
【結語】
造影超音波が有用であった腹直筋血腫の1例を経験した.腫瘤内部への造影剤漏出が明瞭に描出され,診断および経過観察の評価に有用であった.