Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 血管
静脈・技術

(S679)

がん患者に合併するmassive VTEの検討〜卵巣がんと肺がんの比較〜

Cancer patients with massive VTE〜Comparison between Ovary Cancer and Lung Cancer〜

野中 顕子, STUGAARD Marie

Akiko NONAKA, Marie STUGAARD

兵庫県立がんセンター循環器内科

Cardiology, Hyogo Cancer Center

キーワード :

【目的と対象】
がん患者は,静脈血栓症を合併することが多く,時にそれが患者の予後を左右することもある.当がんセンターで過去1年間にmassive VTE(Venous Thromboembolism)を発症した40人中,症例の多かった卵巣癌と肺癌について,その発症時期,がん治療経過について検討した.
【結果】
卵巣癌は8例,肺癌6例であった.
①術後早期の発症は認められなかった.卵巣癌術後は,術後VTE予防のために低分子ヘパリンを使用した.肺癌術後は抗凝固療法はおこなわなかった.
②初回治療前にmassive VTEの合併がみられたのは,卵巣癌8例全例(手術前の化学療法前),肺癌1例(進行癌に対する化学療法前)であった.肺癌手術前は認められなかった.卵巣癌は全例巨大腫瘤であり,腫瘍による骨盤内静脈圧排をともなっていた.
③化学療法中の発症は卵巣癌0例,肺癌5例であった.この5例は全て骨盤内静脈圧排をともなっていなかった.全例が腺癌であった.
④卵巣癌8例中,その後の治療により原疾患が治癒切除またはCR(Complete Response)となったのは4例であった.肺癌治療前および化学療法中の患者が治療によりCRとなった例は認められなかった.
⑤卵巣癌の8例で,全例あきらかな下肢浮腫や下肢痛はなかったが,下肢静脈エコーで静脈内に充満または索状血栓像は全例で認められた.肺癌6例中,下肢症状は1例で認められた.エコー検査で下肢DVTは充満型または索状の血栓像として4例に認められた.
【考察】
①初回治療前に既にmassive VTEを合併している卵巣癌では初診時に巨大腫瘤形成による骨盤内静脈圧排が認められていた.肺癌では早期癌での合併はなく,進行癌の状態での骨盤内静脈圧排なしの発症であった.肺線癌はムチン様物質を放出するために全身凝固能が高まると言われており,腫瘍量の多い進行肺線癌では全身凝固能が亢進するためのVTE合併が多いと考えられた.卵巣癌では巨大腫瘤により骨盤内静脈が圧排されるため,下肢深部静脈血栓が形成されると考えられた.
②術後のVTE合併はガイドラインに沿った術後抗凝固療法で有効に予防できているが,近年では,むしろ治療前,化学療法中のmassive VTEが多くみられる.治療前にmassive VTEを合併していた卵巣癌では,その後の化学療法,手術によりCRとなる例が半数あったが,肺癌ではCRとなった例は認めなかった.卵巣癌初診時には,がん死の予後よりも血栓死の予後が悪い可能性がある.悲劇的な血栓死を予防するため,卵巣癌においては,肺癌よりも治療前VTEスクリーニングを入念にするべきと思われた.
Massive VTE合併の卵巣癌では下肢症状が明らかでなないにもかかわらず,全例下肢DVT合併していたため,エコー検査での下肢DVTスクリーニングが有用と考えられた.