Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 甲状腺
嚢胞関連他

(S667)

症候性甲状腺嚢胞の経過を予測できる初診時因子の検討

Evaluation of prognostic factors of symptomatic thyroid cysts at the first visit

江戸 直樹1, 盛田 幸司2, 佐藤 美佳子3, 大河原 宏征3, 貴田岡 正史4

Naoki EDO1, Koji MORITA2, Mikako SATO3, Hiroyuki OOKAWARA3, Masafumi KITAOKA4

1防衛省人事教育局医務室, 2帝京平成大学ヒューマンケア学部, 3公立昭和病院臨床検査科, 4公立昭和病院内分泌代謝内科

1Bureau of Personnel and Education, Ministry of Defense, 2Faculty of Health Care, Teikyo Heisei University, 3Clinical Laboratory Department, Showa General Hospital, 4Department of Endocrinology and Metabolism, Showa General Hospital

キーワード :

【背景】
甲状腺の嚢胞性病変の頻度は高く,そのうちの一部は症候性となり,医療機関を受診,甲状腺超音波検査を施行するに至る.嚢胞といっても,内出血等を伴い,比較的に短期間で増大・症状出現し,その後自然経過で縮小するものや,緩徐に内容液が貯留し,粘性も高く,穿刺等での制御にも難渋するもの等,多彩である.そこで今回,嚢胞性病変の経過を規定・予測できる初診時因子を見出すべく後向きに解析を試みた.
【方法】
2006年から2012年に初診した症候性(疼痛,圧迫感,外見的主訴等)甲状腺嚢胞40例(男性11例,女性29例:平均52.6±16.6歳)に対し,病歴・初診時各所見(罹病期間,初診時検査データ,超音波所見等)と最終的な治療経過(経過観察のみ,穿刺排液のみ,PEIT施行)との関係について後向きに解析した.
【結果】
症候の内訳は38例が頸部腫大自覚,13例が頸部圧迫感,8例が疼痛であった(重複あり).症状出現から受診までの平均日数は約67日だった.今回対象とした症例に多房性嚢胞はなく,特徴的な超音波所見から乳頭癌を疑った症例が1例,感染性嚢胞を疑った症例が2例あり,直ちに穿刺・細胞診を施行した(いずれも確定診断に至る).他の症例は患者希望を加味して方針を決め,また穿刺排液後再貯留しても,患者に再穿刺やPEITの希望がない場合は経過観察とした.最終的にPEITを施行した症例(PEIT群)は14例で,穿刺排液のみの症例(穿刺群)は16例,経過観察のみの症例(非穿刺群)が10例となった.非穿刺群では,症状出現から受診までの期間は平均約35日,嚢胞径の平均は32.0mm,血清サイログロブリン(Tg)平均値1600 ng/mL,TSH抑制例は2例,WBC上昇例は1例,CRP陽性は1例であった.また,穿刺群では,症状出現から受診までの期間は平均約51日,嚢胞径の平均は38.7mm,Tg平均値7800 ng/mL,TSH抑制例は3例,WBC上昇例は7例,CRP陽性は5例であり,穿刺回数は全例で1回のみだった(再貯留しても以後自然縮小).PEIT群では,症状出現から受診までの期間は平均約110日,嚢胞径の平均は48.9mm,Tg平均値780 ng/mL,TSH抑制例は3例,WBCは1例で上昇を認めた.PEITの実施回数は1例のみ2回で他は1回であり,「穿刺排液(細胞診良性)で再貯留しPEIT施行」が10例,「経過観察で縮小なく,悪性否定的な所見からPEIT施行」が6例であった.PEIT群と非PEIT群(穿刺群+非穿刺群)の比較では,PEIT群で圧痛が有意に少なく,最大径が大きい傾向があった(p=0.08).また,穿刺群と非穿刺群の比較では,穿刺群でCRPが有意に高値だった(感染性嚢胞疑いの2例を除いても同様).
【考察】
当初経過観察とした16例中6例と,(乳頭癌や感染性疑いの2例を除いた)穿刺排液のみの20例中7例でPEITに至っており,頸部腫大出現からかなり時間が経過し,嚢胞径が大きく,圧痛がなく,Tg高値も目立たない症例で,PEITが選択される傾向があり,PEIT施行後は確実な嚢胞縮小効果が確認された.一方,PEIT未実施でも嚢胞縮小や自覚症状改善が得られた例は,予想通り症状出現から間もない例(Tgも高く,内出血等での短期増大例と想定される),嚢胞径がさほど大きくない例であり,このような例では経過観察のみ,ないしは1回の穿刺排液に留めても(仮に再貯留し,一旦元の嚢胞サイズに戻ったとしても)以後の自然縮小が期待されることが判明した.PEIT未実施でも繰り返しの穿刺排液が有効との既報もあるが,病歴やTg値,超音波での嚢胞径計測により症例を選択すれば,最低限の穿刺で経過をみることも可能なことが示唆された.このような経過予測と患者希望を加味し,治療方針が決定されるべきと考える.