内野 眞也¹, 石川 秀樹^{2, 3}, 道倉 雅仁⁴, 廣川 満良⁵, 宮内 昭⁶

Shinya UCHINO¹, Hideki ISHIKAWA^{2, 3}, Masahito MICHIKURA⁴, Mitsuyoshi HIROKAWA⁵, Akira MIYAUCHI⁶

¹医療法人野口記念会野口病院外科, ²京都府立医科大学分子標的癌予防医学, ³石川消化器内科内科, ⁴石川消化器内科臨床検査部, ⁵医療法人神甲会隈病院病理診断科, ⁶医療法人神甲会隈病院外科

¹Department of Surgery, Noguchi Thyroid Clinic and Hospital Foundation, ²Department of Molecular-Targeting Cancer Prevention, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, ³Department of Internal Medicine, Ishikawa Gastroenterological Clinic, ⁴Department of Clinical Laboratory, Ishikawa Gastroenterological Clinic, ⁵Department of Pathology, Kuma Hospital, ⁶Department of Surgery, Kuma Hospital

キーワード :

【目的】
篩（・モルラ）型甲状腺乳頭癌（CMV-PTC）は，甲状腺癌の頻度としては非常に稀であるが，常染色体優性遺伝疾患である家族性大腸腺腫症（FAP）に特徴的に認められる病理組織型である．今回，FAP患者における甲状腺癌の頻度とその特徴を明らかとする目的で，甲状腺超音波スクリーニングを施行した．
【対象と方法】
石川消化器内科でフォローを受けている129例の家族性大腸腺腫症患者（男性60例，女性69例）を対象とした．39例は大腸切除後であり，90例は大腸未手術例であった．石川消化器内科で頸部超音波スクリーニングを行い，甲状腺腫瘍が発見された症例は隈病院にて精査の後手術適応を検討し，適応症例に対しては手術を行った．女性2例はスクリーニング時に既に甲状腺癌の手術既往があったため，病理組織標本を取り寄せて確認した．
【結果】
129例中21例（16.3％）に充実性腫瘍（単発12例，多発9例）が認められ，24例（18.6％）に嚢胞が認められた．単発性充実腫瘍を認めた男性6例の超音波計測の腫瘍径は5-22mmであり，全例超音波検査と穿刺吸引細胞診で良性と診断し，フォローとした．単発性充実腫瘍の女性6例の超音波計測の腫瘍径は7-46mmであり，うち3例に乳頭癌（CMV-PTC 1例，通常型2例）を認め，手術を施行した．多発性充実腫瘍の女性9例の超音波計測の腫瘍最大径は6-30mmであり，6例に乳頭癌（CMV-PTC 5例，通常型1例）を認め，5例に手術を施行した．既に甲状腺癌手術既往があった女性2例の病理組織像を確認したところ，いずれもCMV-PTCであった．以上合計すると，男性では甲状腺癌の発生は1例もなく，女性では11例（女性患者の16％）に乳頭癌が認められた．内訳はCMV-PTCが8例，通常型乳頭癌が3例であった．今回充実性腫瘍が発見された女性患者15例（平均年齢39.7±16.5歳，18-79歳）において年齢で区別すると，35歳以下の7例中6例にCMV-PTCが認められたが，36歳以上の8例にはCMV-PTCは1例も認められなかった（p＜0.014 by Fisher’s exact test）．
【結論】
FAP女性患者の約16％と，これまで予想されていた以上の頻度で甲状腺癌が発生していることが明らかとなった．なかでも35歳以下の若年女性にCMV-PTCが集中して発生していることが特徴であり，このことからFAPの若年女性に対しては甲状腺超音波スクリーニングを強く勧めるべきである．