Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 産婦人科
妊娠初期

(S634)

妊娠初期胎児超音波検査の役割を考える

The role of first trimester fetal ultrasound testing

永井 立平

Ryuhei NAGAI

高知医療センター産科

Obstetrics, Kochi Health Sciencese Center

キーワード :

【目的】
晩婚化や高齢妊娠の増加に加え無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)の登場を背景に染色体異常を含む出生前診断への関心は高まっているが,検査方法の選択や検査結果の解釈には産科医の中でも統一されておらず未だゴールドスタンダードはない.倫理的な問題も含んでおり遺伝カウンセリングなど適切な対応が求められているが,各施設毎に対応を模索しているのが現状である.当施設ではFetal Medicine Foundation(FMF)の指針に基づきNuchal Translucency(NT)に代表される妊娠初期胎児超音波検査を施行し,FMFリスク計算ソフトを用いリスクを算出し臨床に応用している.開始から4年が経過したが,出生前検査としての今後の位置づけを検討したので報告する.
【対象・方法】
2009年10月から2013年3月に当院胎児超音波外来を受診し,同意を得られ検査可能だった327例について後方視的に検討した.方法は検査前に妊婦とそのパートナーにあらかじめ検査方法,検査結果の解釈についてカウンセリングを施行した後,同意を得た症例に対しFMF資格保有者が胎児超音波検査を施行,検査後にFMFスクリーニングソフトウェアによるリスク評価を参考に再度カウンセリングを行った.
【結果】
327例中156例(47.7%)が35歳以上,43例(13.1%)が40歳以上の高齢妊婦だった.侵襲的診断検査(絨毛検査・羊水検査)の合併症リスクを1/200程度と考えそれより高い確率となった症例を高リスク,低い確率となった症例を低リスクとすると,327例中53例(16.2%)が高リスクと算出されたが,確認検査として前述の侵襲的診断検査を施行したのは17例(32.1%)のみだった.低リスクとされた274例中268例は正常妊娠・分娩経過であり染色体異常を対象とした特異度は97.8%だった.高リスクとされた53例中では正常経過症例は36例(67.9%)にとどまり,4例の染色体異常を認め陽性的中率は7.5%だった.染色体検査を希望され受診した130例中,最終的に診断検査(死胎児絨毛検査を含む)を施行したのは22例(16.9%)のみだった.染色体異常は5例(1.5%)でスクリーニング対象である数的染色体異常はすべて検出された(不均衡転座1例は検出されず).40歳以上で染色体異常を心配し受診した43例のうちリスクが低く算出された27例中25例(92.6%)と,リスクが高く算出された16例中12例(75%)は侵襲的検査を希望しなかった.
【考察】
検査総数は着実に増えており,高齢妊婦の増加と出生前検査への関心の高さが確認された.FMFに基づく妊娠初期胎児超音波検査は本邦においても染色体異常を含めた妊娠初期出生前診断に有用であることが確認された.また染色体検査を希望され受診した妊婦のうち,本検査を施行することにより侵襲的検査を回避出来る可能性が示唆された.本検査で高リスクとなったにもかかわらず侵襲的検査を施行しなかった症例が予想外に多く,妊婦とその家族が求めるのは必ずしも染色体異常の有無ではないことが示唆された.超音波検査をきっかけに妊婦と家族が児の今後を真剣に考えるところに,この検査の真の意味があるのではないかと考えられた.