Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児付属物/妊娠子宮

(S624)

前置血管のmigration

Migration of vasa previa

瀧田 寛子, 長谷川 潤一, 新垣 達也, 仲村 将光, 松岡 隆, 市塚 清健, 関沢 明彦

Hiroko TAKITA, Junichi HASEGAWA, Tatsuya ARAKAKI, Masamitsu NAKAMURA, Ryuu MATSUOKA, Kiyotake ICHIZUKA, Akihiko SEKIZAWA

昭和大学病院産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Showa University School of Medicine

キーワード :

【目的】
前置血管は,卵膜血管が内子宮口近くに存在するものであり,破水時や分娩中に胎児先進部の圧迫により血管が断裂するリスクが非常に高い.妊娠中の超音波診断と,帝切前に破水させないような管理が不可欠である.我々は,妊娠の早い時期からの系統立てたスクリーニング体制によって,それらを診断し,児を救命してきた.しかし,子宮下節の開大や妊娠子宮の増大に伴って,超音波検査で胎盤がmigrationすることが知られているのと同様に,臍帯付着部位や卵膜血管の子宮内の相対的位置が変化することをしばしば経験する.このことは,妊娠の早い時期に前置血管と診断・管理することに相反する現象であり,早い時期からより正しい診断ができることが望ましい.我々は,妊娠中期の超音波診断において,特に,子宮下節の未開大の状態での臍帯付着部位の診断は,その後のmigrationに大きく影響すると考えた.そこで,子宮下節の状態を考慮した妊娠中期の超音波検査による子宮下部の臍帯卵膜付着の診断は,分娩時の前置血管を予知する上で,どの様に有用であるかどうかを明らかにすることを目的とした.
【方法】
2011月−2013年に,妊娠18-20週に当院の中期精密超音波外来を受診し,当院で分娩に至った症例のうち,分娩時に子宮下部にある臍帯卵膜付着(前置血管を含む)と診断された単胎症例を対象とした.子宮下部の卵膜付着の診断は,内子宮口から子宮底を1/3とし,下1/3に臍帯卵膜付着や卵膜血管が存在した場合とした.前置血管の診断は,内子宮口および子宮頸部直上に臍帯卵膜付着や卵膜血管が存在した場合とした.分娩時に前置血管であったものと,そうでなかったもので,妊娠中期の超音波所見を比較し,分娩時にも前置血管である場合における妊娠中期の超音波所見の特徴について検討した.子宮下節は,経腟超音波で観察した頸管腺領域の上端よりも子宮内腔側が閉じている場合に,閉鎖している部分と定義した.本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った.
【結果】
対象期間に当院で分娩した単胎症例2923例のうち,分娩時に子宮下部の卵膜付着と診断された対象は12例(0.4%)あり,うち,分娩時の前置血管は8例(0.3%)であった.対象のうち11例は,妊娠中期の超音波検査で子宮下部の臍帯卵膜付着,1例は前置胎盤と診断されていた.それらの中期の超音波診断時に子宮下節が開大していたのは8例あり,6例に前置血管の診断がなされ,分娩時にも全て前置血管であった.1例は前置胎盤の診断がなされていたが,胎盤実質の退縮にともなって分娩時には低置胎盤と前置血管になった.子宮下部の卵膜付着と診断された1例は分娩時までその診断であった.一方,中期に子宮下節が閉鎖していたのは4例あり,うち1例に前置血管の診断がされていて,分娩時にも前置血管であった.
【考察】
妊娠中期の超音波検査において,子宮下節が開いた状態でされた子宮下部の卵膜付着の診断,および前置血管の診断は分娩時の診断と一致した.前置胎盤の退縮によって前置血管となった例もあった.子宮下節が閉じている状態で前置血管と診断したが,下節開大後にも前置血管であった症例が存在した.子宮下部の卵膜付着のmigrationは,妊娠子宮の増大よりも,子宮下節の開大という現象が大きく影響していると考えられるが,子宮内腔の増大と子宮下節の開大にともなって卵膜は組織学的内子宮口側に押し広げられるため,卵膜上に乗っている卵膜血管は下節開大に伴って前置血管になり得ると考えられた.これは胎盤のmigrationとは異なるメカニズムであると思われた.以上のことから,前置血管の診断は子宮下節が開大した状態で行うことが望ましいと考えられた.