鵜飼 真由, 吉原 雅人, 眞山 学徳, 小出 菜月, 近藤 真哉, 古株 哲也, 宮﨑 のどか, 原田 統子, 岸上 靖幸, 小口 秀紀

Mayu UKAI, Masato YOSHIHARA, Michinori MAYAMA, Natsuki KOIDE, Shinya KONDO, Tetsuya KOKABU, Nodoka MIYAZAKI, Toko HARATA, Yasuyuki KISHIGAMI, Hidenori OGUCHI

トヨタ記念病院周産期母子医療センター産科

Department of Obstetrics, Perinatal Medical Center, Toyota Medical Hospital

キーワード :

【緒言】
先天性サイトメガロウイルス（cytomegalovirus; CMV）感染症は，妊婦の0.3％に認められるTORCH症候群の代表疾患である．症候性の場合，子宮内胎児発育不全（intrauterine growth restriction; IUGR），脳室拡大，難聴，肝脾腫，貧血などの症状を呈する1）．胎児中大脳動脈（middle cerebral artery; MCA）血流の収縮期最高速度（peak systolic velocity; PSV）は，胎児貧血の評価2），IUGR児における低酸素血症の指標3）としてその有用性が報告されているが，サイトメガロウイルス感染胎児におけるMCA-PSVの異常高値についての報告はない．今回我々は，妊娠中に胎児のMCA-PSVの異常高値を認め，出生後に先天性CMV感染症と診断した1例を経験したので報告する．
【症例】
28歳，2経妊1経産．既往歴，家族歴に特記すべき事項はない．妊娠を主訴に前医を受診し，周産期管理希望のため，妊娠7週2日に当院紹介初診となった．妊娠経過中に明らかな発熱は認めなかった．妊娠26週5日にMCA-PSVが77.7 cm/secと高値となったが，その後は正常範囲内で推移していた．妊娠34週3日には両側側脳室下角が1.4 cmと脳室拡大を認め，MCA-PSVは75.7 cm/secと再度高値を示した．妊娠36週3日にはIUGR（-1.6SD）を認め，MCA-PSVは87.5 cm/secと更に上昇したが，胎児機能不全の徴候は認めなかった．妊娠39週0日に陣痛が発来し，経腟分娩となった．出生児は男児，2590 g，Apgar score 8/9で，臍帯動脈血pHは7.408，BEは-4.0 mmol/Lであった．新生児採血ではHb 17.1 g/dL，T-Bil 3.2 mg/dLで貧血や黄疸は認めなかったが，日齢1日目よりASTが635 IU/Lと高値を示し，肝障害を認めた．頭部MRIでは両側側脳室は1.7cmに拡大し，自動聴性脳幹反応検査の結果は，両側高度感音性難聴であった．血中CMV IgMは1.15と境界値であったが，PCR法による尿中CMV DNA検出は陽性であり，先天性CMV感染症と診断した．バルガンシクロビル塩酸塩を6週間内服し，2歳となった現在まで，両側高度感音性難聴による言語発達障害を認めるものの，その他の発達遅延はなく外来経過観察中である．
【結論】
先天性CMV感染症は重篤な後遺症を引き起こす可能性があり，その診断には胎児超音波検査における脳室拡大，IUGRが重要である．本症例では脳室拡大，IUGRを認める前にMCA-PSVが異常高値を示していることから，先天性CMV感染症の診断に胎児のMCA-PSVの上昇が有用な可能性が示唆された．
【参考文献】
1）Istas AS, Demmler GJ, Dobbins JG, et al：Surveillance for congenital cytomegalovirus disease：a report from the National Congenital Cytomegalovirus Disease Registry. Clin Infect Dis 20:665-670，1995
2）Mari G．：Middle cerebral artery peak systolic velocity for the diagnosis of fetal anemia, the untold story. Ultrasound Obstet Gynecol 25:323-330，2005
3）Hanif F, Drennan K, Mari G．：Variables that affect the middle cerebral artery peak systolic velocity in fetuses with anemia and intrauterine growth restriction. Am J Perinatol 24:501-505，2007