Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 消化器
その他1

(S606)

緩徐に増大する多房性嚢胞性腫瘤を示した上腹部神経鞘腫の2例

Two cases of slow growing multilocular cystic neurinoma located at the upper abdomen

丁 守哲1, 藤本 武利2, 三輪 亘1, 片岡 寛美3, 北條 麻衣3, 上野 都3, 佐々木 亮二3, 加藤 洋4

Shutetsu TEI1, Taketoshi FUJIMOTO2, Wataru MIWA1, Hiromi KATAOKA3, Mai HOUJOU3, Miyako UENO3, Ryouji SASAKI3, Yo KATO4

1平塚胃腸病院内科, 2平塚胃腸病院外科, 3平塚胃腸病院生理検査室, 4独協医科大学日光医療センター病理部

1Department of Internal Medicine, Hiratsuka Gastroenterological Hospital, 2Department of Surgery, Hiratsuka Gastroenterological Hospital, 3Department of Physiological Laboratory, Hiratsuka Gastroenterological Hospital, 4Department of Pathology, Dokkyo Medical University Nikko Medical Centaer

キーワード :

【はじめに】
神経鞘腫は末梢神経のSchwann細胞に由来する腫瘍で,頭頚部・体幹部・四肢の軟部組織内に好発するが,腹部発生は稀である.今回,われわれは後腹膜と胃小網から発生した上腹部神経鞘腫の2例を経験し,両者とも緩徐に増大する球状〜類楕円体の多房性嚢胞性腫瘤を示した.経時的な画像検査による経過観察を行ったので,文献的考察を含めて報告する.
【症例呈示】
(症例1)61歳男性.1989年8月に胆石経過観察中の腹部超音波検査(以下,US)で膵頭部より上背側に突出する,5cm大で類楕円体の多房性嚢胞性腫瘤を認めた.腫瘤は,門脈・下大静脈・肝外胆管を圧排しており,造影CTを行うと腫瘤の隔壁がenhanceされた,また,MRIではT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を示し,Gd-DTPAによる造影検査で隔壁がenhanceされた.血液生化学検査は正常内であり,腫瘍マーカーもCEAが3.8 ng/ml(基準値2.5以下)と軽度の上昇を認めたほか,CA19-9,SPan-1,elastase-1のすべてが正常であった.膵粘液性嚢胞腫瘍や後腹膜嚢胞性リンパ管腫を疑って手術を勧めたが,患者は経過観察を希望した.1年後わずかな腫瘍増大を認めたため,開腹下に腫瘍摘出術を行った.腫瘤は膵・総胆管・門脈を圧排していたが,これらから剥離可能であり,比較的容易に摘出できた.病理組織学的診断は,後腹膜由来の神経鞘腫であった.
(症例2)57歳男性.2007年10月,進行直腸癌に対して腹腔鏡補助下高位前方切除を施行した際,肝・胃・膵に囲まれた球状の多房性嚢胞性腫瘤を認めた.腫瘤は,15mm大で胃体部小彎に接しており,呼吸の仕方と体位変換により肝・膵・胃壁とはズレが生じるため胃小網由来と考えた.無症状のため経過観察していたところ,徐々に増大して2013年6月長径30mm大になった.造影CTで腫瘤はenhanceされず,MRIのT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を示し,造影しても隔壁に濃染を認めなかった.ちなみに,ソナゾイドによる造影USでも腫瘤の染影はみられなかった.血液生化学検査は正常内であり,腫瘍マーカーのCEA, CA19-9も正常であった.無症状であったが約6年の経過で容積が8倍に増大したことを考えて患者が手術を希望し,腹腔鏡下腫瘍摘出術を行った.病理組織学的診断は,胃小網由来の神経鞘腫であった.
【考察】
稀な上腹部神経鞘腫の2切除例を経験した.神経鞘腫は被膜を有して境界が明瞭であり,嚢胞変性をきたしやすく,充実成分と嚢胞成分の混在で様々な画像所見を示すといわれる.自験例は2症例とも嚢胞成分が主体であり,経時的に緩徐な増大傾向を示した.特に症例2は発見当初の径15mmの時点より嚢胞性腫瘤を示していた.治療は腫瘍摘出術が必要十分であるが,既報告例の検討によると施行術式は術前・術中診断により様々である.症例1のように膵頭部に隣接して後腹膜に発生したものでは,膵頭十二指腸切除術が施行されたものもあり,過大な手術侵襲を避けるためにも的確な術前画像診断が求められるが,一方で限界もある.自験例の術式選択に際して,症例1は膵から突出している所見と術中所見が決め手となったが,症例2では他の画像検査に対してUSが呼吸法や体位変換による所見も含めて由来臓器の確定に有用であり,役立った.神経鞘腫は特異的な画像所見が認められないため術前画像診断が難しく,腹腔内嚢胞性腫瘤を認めた場合,常に鑑別診断として念頭におく必要がある.なお,症例1は,1991年4月日超医第58回学術集会(京都市)で報告した.