長沼 裕子¹, 石田 秀明², 長井 裕³, 大山 葉子⁴, 渡部 多佳子², 伊藤 恵子⁵, 須田 亜衣子⁵, 千葉 崇宏⁶

Hiroko NAGANUMA¹, Hideaki ISHIDA², Hiroshi NAGAI³, Yoko OHYAMA⁴, Takako WATANABE², Keiko ITOU⁵, Aiko SUDA⁵, Takahiro CHIBA⁶

¹市立横手病院消化器科, ²秋田赤十字病院超音波センター, ³NGI研究所, ⁴秋田組合総合病院臨床検査科, ⁵仙北組合総合病院臨床検査科, ⁶栗原市立栗原中央病院放射線科

¹Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, ²Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, ³New Generation Imaging Laboratory, ⁴Department of Medical Laboratory, Akita Kumiai General Hospital, ⁵Department of Medical Laboratory, Senboku Kumiai General Hospital, ⁶Department of Radiology, Kurihara Municipal Central Hospital

キーワード :

【はじめに】
胆嚢は内腔が無エコーとして表現される臓器であるため，アーチファクトが高頻度に観察される．多重反射，サイドローブ，ビームの幅による像の重なりなどは，以前より，よく知られているアーチファクトである．胆嚢内のくも状エコーに関する報告は現在までなされていないが，胆嚢内に見られるアーチファクトとして認識しておくことは胆嚢内の病変との鑑別をするうえで重要と思われる．今回我々は，胆嚢内腔に明瞭にくも状エコーを認めた症例を検討し，若干の知見を得たので報告する．
【対象と方法】
2012年8月〜2013年11月に，外来のUS検査で胆嚢にくも状エコーが明瞭に認められた7例（男性3例女性4例，年齢35-85，平均58歳）を対象に，くも状エコーの特徴，出現位置，視野深度や繰り返し周波数（PRF）を変えることで消失するかどうか，について検討した．使用装置：日立アロカ社製Preirus，東芝社製Aplio XG，Xario XG.
【結果】
胆嚢内に観察されたくも状エコーは，I．胆嚢内のある限局した位置に出現し心拍と同期した動きを示すもの（3例），II．肝床に接した胆嚢壁から帯状にみられ心拍の動きを示さないもの（4例），の2種類に大別された．IIは心臓の動きは全く呈さないが，胆嚢後方の十二指腸のガスの動きにより変化した．Iは胆石と，IIはコメット様エコーとの鑑別が必要であった．7例全例で，視野深度を深くしてPRFを下げると消失した．
【まとめと考察】
くも状エコーは，PRFが高いと視野深度よりも深い位置の構造物から反射した超音波が次の送受信時に受信され，実際存在するよりも浅い位置に表示される，range-ambiguity artifact（残留エコー）の一つであり，PRFを下げると消失することで確認できる．我々はいままで肝嚢胞や肝実質内にみられるくも状エコーの特徴，除去方法，問題点等について報告を重ねてきた．今回，胆嚢内腔に見られるくも状エコーを検討した結果，それには2タイプあり，Iは心拍の動きを示すことから心臓からの反射を表示しており，IIは心拍の動きを示さず，帯状のくも状エコーで，背側の十二指腸のガスのring-down artifactを表示している可能性が考えられた．IIはこれまで報告してきたくも状エコーと若干異なるもので，興味深い所見であり，機序に関しては今後も検討を続けて確認する必要がある．胆嚢内腔にみられるくも状エコーについてはあまり認識されていないが，今回，画像提示するような典型像でないとしても，I,IIのいずれのタイプとも日常的に見られるものであり，典型像やその機序を知っておくことは大切と思われた．
【文献】
1）Naganuma H, Ishida H, Funaoka M, et al. Mobile schoes in liver cysts: a form of range-ambiguity artifact. J Clin Ultrasound 2010; 38: 475-9.
2）長沼裕子，他．大きな肝嚢胞内に観察される“くも状エコー”に関する考察：超音波医学第80回学術集会プログラム講演抄録集．2007; 34: S429.
3）長沼裕子，他．肝内に観察される“くも状エコー”に関する考察：超音波医学第83回学術集会プログラム講演抄録集．2010; 37: S389.
4）長沼裕子，他：くも状エコーの造影USにおける問題点．超音波医学第86回学術集会プログラム講演抄録集．2013; 40: S558.