英文誌(2004-)
一般口演 消化器
血流診断2
(S585)
反復性肝性脳症患者の超音波ドプラ解析:左精巣静脈内で対向する静脈血流の報告
A case of portosystemic encephalopathy due to superior mesenteric-caval shunt: intravenous countercurrent flow detected by doppler ultrasound
石橋 啓如, 豊水 道史, 浅木 努史, 足立 清太郎, 安田 伊久磨, 片倉 芳樹, 吹田 洋將
Hiroyuki ISHIBASHI, Michifumi TOYOMIZU, Tsutoshi ASAKI, Seitarou ADACHI, Ikuma YASUDA, Yoshiki KATAKURA, Yosho FUKITA
聖隷横浜病院消化器内科
Department of Gastroenterology, Seirei Yokohama General Hospital
キーワード :
【目的】
門脈圧亢進症患者の血行動態はその臨床経過によって変化することから,多岐にわたる側副血行路内の血流方向については不明瞭な点も多い.今回我々は非B非C型肝硬変症患者に合併した上腸間膜静脈-左精巣静脈-左腎静脈短絡路を有する反復性肝性脳症を経験した.腹部超音波ドプラ解析により,左精巣静脈内に対向性の血流が確認されたので報告する.
【症例】
76歳男性.飲酒歴もない非B非C型肝硬変症(腹水なし,脳症1度,T-Bil1.8mg/dl,PT51%,アルブミン3.0g/dl,Child-Pugh score8点)として2013年3月より当院通院加療となっていた.同年5月甲状腺機能亢進症を発症し,心房細動,心不全により入院加療.以後,肝性脳症が増悪し,同年8月には肝性昏睡により入院加療を要した.退院後も持続する高アンモニア血症(189-200μg/dl)を認め,内服薬のみでは肝性脳症のコントロールが困難であり,外来にて肝不全用アミノ酸製剤の頻回注射を要した.腹部造影CT検査では上腸間膜静脈の末梢から左精巣静脈に連続する短絡路が発達し,左腎静脈を介して下大静脈へと連続しており,門脈本幹の狭細化(径6×8mm)が指摘された.門脈大循環短絡路が反復性肝性脳症の一因と判断され,同年11月バルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術(B-RTO)による加療を考慮.精査で施行した腹部超音波ドプラ検査にて肝内門脈はTo and fro,門脈本幹は間歇的順流,脾静脈は順流(210ml/m),上腸間膜静脈は本幹部では血流方向が定まらず,末梢に遠肝性の短絡路が確認された.一方,左精巣静脈は径16×15mmに拡張し,外側では左腎臓から流出する血流が尾側に向かい,内側では上腸間膜静脈からの短絡路より流入した血流が頭側に向かって左腎静脈を介して下大静脈に流出していた.この所見は横断面でのカラードプラ観察でも定常的に確認された.B-RTOは超音波ドプラモニタリング下で行い,バルーン閉塞によって短絡路が完全に閉塞し,門脈本幹血流が定常的な順流(300-420ml/m,径13×9mm)となったことを確認後に塞栓術を行った.術後,アンモニアは26μg/dlまで低下し,脳症は消失した.腹部造影CT検査では短絡路と上腸間膜静脈のごく一部以外には血栓を認めず,治療後7日で軽快退院となった.
【考察】
本症例のように同一静脈内で向かい合う血流がTo and froや乱流・渦流・間歇的血流とはならず,内外側で対向する血流として定常的に観察された所見の報告はこれまでに無かった.同所見は門脈圧亢進症に伴い著明に拡張した静脈内でのみ発生し得る特殊な血行動態ではないかと推察された.
【結論】
反復性肝性脳症患者における超音波ドプラ解析によって左精巣静脈内に対向する静脈血流が観察され,同所見は短絡路の閉塞により消失した.本症例のような血行動態は他のモダリティーでは検出することが困難と考えられ,門脈圧亢進症患者で発達した側副血行路内の血流解析における超音波ドプラの重要性が再確認された.