Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 消化器
血流診断2

(S584)

門脈血行動態の経年的変動に関する臨床的検討

Annual changes in the portal hemodynamics in chronic liver disease

清野 宗一郎, 丸山 紀史, 近藤 孝行, 関本 匡, 嶋田 太郎, 髙橋 正憲, 奥川 英博, 横須賀 收

Sichir KIYONO, Hitoshi MARUYAMA, Takayuki KONDO, Tadashi SEKIMOTO, Taro SHIMADA, Masanori TAKAHASHI, Hidehiro OKUGAWA, Osamu YOKOSUKA

千葉大学大学院医学研究院消化器・腎臓内科学

Department of Gastroenterology and Nephrology, Chiba University Graduate School of Medicine

キーワード :

【目的】
門脈血行動態の観察は,肝疾患診療において重要な診療アプローチの一つである.慢性肝疾患例では経過が長期に及ぶことが多く,複数回の血流計測が施行されることも少なくない.血行動態は種々の臨床イベントに付随して変化することが予想されるが,自然経過での経時的変動については十分に検討されていない.特に,門脈血流の視点から病態分析を行う場合に血流の変動幅が基準となるが,経年的な参考値を示した報告はみられない.今回我々は,慢性肝疾患例において1年間隔での門脈血行動態を追跡し,経年的な変動幅を検討した.本成績を元に,長期経過観察例に対する血流計測値の有意変動判定のあり方について考察した.
【方法】
当院に通院中で,登録時と1年後の少なくとも2回の門脈血流計測が施行された肝硬変29例(年齢39〜78歳,男性19例,女性10例,Child A 18例,B 4例,C 1例)および非硬変例16例(年齢38〜71歳,男性8例,女性8例,特発性門脈圧亢進症7例,慢性肝炎1例,Budd-Chiari症候群1例,その他7例)の計45例(観察期間中央値362日)を対象とした.なお経過中に肝細胞癌治療や静脈瘤治療が行われた例は除外し,1年の経過でChild-Pugh score 1点以上の増加を肝機能増悪と定義した.
超音波パルスドプラでは,心窩部斜走査で門脈本幹を長軸方向に描出し,血管径に合わせたサンプル幅で波形を検出した.平均流速の時間平均を算出し,円に近似した血管断面積との積によって平均血流量を求めた.なお,超音波ビームと血管軸との角度を60度以下として計測を行い,複数回(平均2.1回,2〜3回)の計測値の平均を採用した.そして,初回と2回目の計測値間での変化率(前値と後値の差/前値×100,%)を年間変動率と定義した.なお,本試験は当院IRB承認の前向き臨床試験である.
【成績】
1.初回計測値の検討
門脈の径,流速,流量は,肝硬変では11.1±0.69mm,12.1±1.72cm/s,737±145L/min(平均±標準偏差)であり,非硬変例では12.0±0.82mm,11.9±1.78cm/s,706±160L/minであった.両群間で有意差は認めなかった(径,P=0.3225;流速,P=0.2044;流量,P=0.2989).
また,径,流速,流量に対するintra-observer variabilityは,肝硬変では6.2%,14.2%,19.6%,非硬変例では6.8%,15.0%,22.6%で,両群間で有意差はみられなかった(径,P=0.5244;流速,P=0.6507;流量,P=0.5053).
2.年間変動率
門脈の径,流速,流量の年間変動率は,肝硬変では9.0±9.3%,19.6±10.7%,28.7±24.6%(平均±標準偏差)であり,非硬変例では11.3±14.5%,22.9±17.8%,37.6±28.6%であった.両群間で有意差を認めなかった(径,P=0.4054;流速,P=0.4352;流量,P=0.3542).
3.年間変動率と臨床背景との対比
肝硬変例における年間変動率は,登録時の肝予備能(Child,MELD),静脈瘤や脾腫の有無とは有意な関連を認めなかった.また,門脈の径,流速,流量の年間変動率は,肝機能増悪例(n=10)では6.8%,23.2%,31.3%,非増悪例(n=19)では10.3%,17.4%,27.0%であり,両群間で有意差を認めなかった(径,P=0.3683;流速,P=0.1844;流量,P=0.6743).
【結語】
慢性肝疾患例では,門脈本幹の径,流速,流量は,1年の経過で,それぞれ9.0〜11.3%,19.6〜22.9%,28.7〜37.6%の変動が起こりうる.この基準値を超えた変化については,臨床上,有意な変動として取り扱うべきと考えられた.