石田 秀明¹, 小松田 智也¹, 渡部 多佳子¹, 大山 葉子², 長沼 裕子³, 伊藤 恵子⁴, 櫻庭 里美⁵, 神馬 孝悦⁵, 渡辺 大輔⁶, 宇野 篤⁷

Hideaki ISHIDA¹, Tomoya KOMATUDA¹, Takako WATANABE¹, Yoko OHYAMA², Hiroko NAGANUMA³, Keiko ITOU⁴, Satomi SAKURABA⁵, Kouetu JINBA⁵, Daisuke WATANABE⁶, Atsushi UNO⁷

¹秋田赤十字病院超音波センター, ²秋田組合総合病院臨床検査科, ³市立横手病院消化器科, ⁴仙北組合総合病院臨床検査科, ⁵能代山本医師会病院臨床検査科, ⁶能代山本医師会病院消化器科, ⁷成人病医療センター消化器科

¹Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, ²Department of Medical Laboratory, Akita Kumiai General Hospital, ³Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, ⁴Department of Medical Laboratory, Senboku Kumiai General Hospital, ⁵Department of Medical Laboratory, Noshiro Yamamoto Ishikai Hospital, ⁶Department of Gastroenterology, Noshiro Yamamoto Ishikai Hospital, ⁷Department of Gastroenterology, Akita Medical Center

キーワード :

【はじめに】
肝硬変では原因に関わらず左葉内側区（S4）が萎縮することが知られている．一方，高齢者でもS4の高度萎縮例が時折みられ加齢による変化と考えられている．我々はすでに第84回日本超音波医学会でこの萎縮の問題を取り上げ報告した．しかし，そのとき萎縮箇所が超音波上どうみえるか，という掘り下げはしなかった．今回我々はこの点を検討し若干の知見を得たので報告する．使用診断装置:東芝社製：AplioXG,500．GE社：LogiqE9，日立アロカ社製：Ascendus,Preirus,Prosoundα10．超音波造影剤はソナゾイド（第一三共社）を用い，造影方法は通常の肝腫瘍のそれに準じた．
【対象と方法】
採血検査と画像診断から肝硬変を除外した症例中S4が高度に萎縮した6例（男性5例，女性1例，年齢71-84歳，平均：76.4歳）を対象に，その萎縮S4箇所の超音波（Bモード）所見を再検討した．
【結果】
a）6例全例で他の区域に比して萎縮箇所のエコー輝度が低下していた（均一低エコー3例，不均一低エコー3例）．b）6例中4例で萎縮箇所の肝表面が凹凸不整に表示されていた．その凹凸不整の状態や程度は観察面により若干異なり一定ではなかった．
【まとめと考察】
肝硬変例では原因を問わず肝左内側区（S4）が萎縮することが知られている．今回の検討でも，S4は超音波画像上辺縁に凹凸がみられ肝硬変のそれに類似したものであった．これは萎縮したS4前方に多量の脂肪層が存在し，その厚みが不均一である事に起因すると思われる．超音波診断装置は体内の超音波伝播速度は一定（1540m/sec）として単純に，超音波の送受信に要した時間から反射点の位置を超音波画像上に表示しているに過ぎない．一方，脂肪内の超音波伝播速度は診断装置の設定伝播速度より100m/secほど遅いため（1450m/sec前後）脂肪後方の反射点は実際より後方に表示されるため，脂肪層が厚い場合表示位置は大きく後方となる．さらに，その脂
肪層の厚みが不均一な場合反射点の表示位置も脂肪層の厚みにより変化することになる．このため，萎縮したS4の表面が凹凸して表示されるものと推定される．一方，肝は多数の肝細胞を結合織と血管が取り囲む規則的な構造を基本的な単位としており，これが均一な散乱と均等な減衰を生んでいる．今回の例では，萎縮肝前方の大量の脂肪内の不均一な構造が不均一な散乱をきたし超音波の減衰をきたし“萎縮箇所のエコー輝度の低下”をきたしたものと推定される．いずれにしても，今回のようなS4に限定した高度萎縮例の超音波所見の報告は極めて少なく，超音波診断上の注意点と考え報告した．