Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 消化器
消化管2

(S558)

イレウスを繰り返し診断に苦慮した小腸肉腫の1例

A case of sarcoma of the small intestine with recurrent ileus

有吉 彩, 佐藤 幸恵, 前岡 悦子, 二坂 好美, 小島 祐毅, 清水 由貴, 山岸 宏江, 湯浅 典博

Aya ARIYOSHI, Yukie SATO, Etsuko MAEOKA, Yoshimi NISAKA, Yuki KOJIMA, Yuki SHIMIZU, Hiroe YAMAGISHI, Norihiro YUASA

名古屋第一赤十字病院検査部

Department of Clinical Laboratory, Japanese Red Cross Nagoya Daiichi Hospital

キーワード :

1.症例報告
【症例】
66歳,女性
【既往歴】
糖尿病,高脂血症,喘息
【臨床経過】
①2013年5月,腹痛,嘔気を自覚し近医を受診.鎮痛剤・制吐剤を処方されたが症状軽快せず,当院へ搬送された.
身体所見:KT35.2℃,腹部全体に圧痛が強く,反跳痛を認めた.
血液検査所見:CRP 7.8mg/dL,Procalcitonin 100ng/mL以上,BUN 46mg/dL, Cre 2.04mg/dL,で,高度の脱水と炎症所見を認めた.
造影CT:回腸遠位部の壁肥厚と造影効果増強を認めた.また,同部に25mmの腫瘤様低吸収域とその口側小腸の軽度拡張を認めた.
US:回腸遠位部に圧痛と一致して第4層と連続する28×21mmの低エコー腫瘤を認めた.境界明瞭,内部不均一で内腔側に高エコー層を伴ったので,粘膜下腫瘍を疑った.
CF:回盲弁から15cmの小腸に発赤した不整な周堤を伴う潰瘍性病変を認めたが,生検で悪性所見を認めなかった.
経過:画像上,腫瘍性疾患と炎症性疾患の鑑別が問題であったが,脱水が高度であり入院して保存的治療が行われた.血液培養でBacteroides fragilisが検出されたが,抗生剤投与で炎症は消退した.小腸の拡張や壁肥厚も改善し,第15病日に退院した.
②2013年10月,腹痛,嘔気を主訴に来院.前回入院時と比べ炎症反応は軽度でほぼ同様の画像所見であったため,入院して保存的治療が行われた.小腸腫瘍が疑われ,退院後外来にてCF再検が予定された.
③2013年11月,腹痛,嘔気のため来院.右下腹部に限局する圧痛があり,反跳痛を認めた.
造影CT:回腸遠位部で腫瘤状の壁肥厚と強い造影効果を認めた.口側小腸は拡張し,腫瘤による機械性イレウスと考えられた.
US:回腸遠位部に第4層と連続する内部不均一な25×22mmの低エコー腫瘤を認めた.
CF:回腸末端に立ち上がりが正常粘膜に覆われた隆起性病変を認めた.
PET:回腸遠位部の腫瘤に一致してFDGの高集積(SUV :7.34)を認めた.
2013年11月,腫瘤を含めた回腸部分切除が行われた.
【切除標本肉眼所見】
漿膜面に軽度引きつれを伴う30×20mmの腫瘍を認めた.潰瘍限局型であったが,腫瘤の立ち上がりは正常粘膜に被覆されていた.
【病理組織所見】
腫瘍に一致して小型の短紡錘形細胞が粘膜下層・固有筋層を中心に胞巣状,索状配列を示し,漿膜下組織まで浸潤していた.粘膜面には潰瘍を形成していた.免疫染色にてCAM5.2ごく一部+,CK7ごく一部+,CK20-,EMA+,CD56弱+,αSMA-,CD34-,S-100-,HMB-45-,c-kit-,bcl-2+,CD99-,inhibin一部+,calretinin-で,更にFISHでEWSの変異が確認され,Clear cell sarcoma-like tumor of the gastrointestinal tractと診断された.
2.考察
本症例は画像所見で回腸の腫瘍性病変を疑ったが,腹膜刺激症状や炎症所見を認めたため炎症性疾患との鑑別に苦慮した.腫瘍によりイレウスを生じ,閉塞性腸炎によるbacterial translocationから菌血症を起こしたため,高度の炎症所見を伴ったと考えた.切除標本で粘膜面に潰瘍を形成していたが,腫瘍の主座は粘膜下層・固有筋層にあり破骨型多核巨細胞を認めること,また免疫染色から上皮性腫瘍は否定されClear cell sarcoma-like tumorと診断された.本疾患は消化管(特に小腸)に好発する稀な悪性腫瘍であり,US所見はあまり知られていないが,自験例では腫瘤内部は不均一な低エコーを呈した.病理組織所見と対比すると,腫瘍の低エコー部分は腫瘍細胞巣を反映しており,高エコーの混在する不均一エコーは腫瘤の固有筋層への不規則な浸潤を反映していると考えられる.USで腫瘤が小腸第4層と連続し内腔側に高エコー層を伴ったことは,粘膜下腫瘍を示唆する所見であった.
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