西村 純子¹, 田中 弘教^{1, 2}, 吉田 昌弘¹, 橋本 眞里子¹, 柴田 陽子¹, 山平 正浩¹, 仲宗根 咲子¹, 廣田 誠一³, 西口 修平², 飯島 尋子^{1, 2}

Junko NISHIMURA¹, Hironori TANAKA^{1, 2}, Masahiro YOSHIDA¹, Mariko HASHIMOTO¹, Youko SHIBATA¹, Masahiro YAMAHIRA¹, Sakiko NAKASONE¹, Seiichi HIROTA³, Syuhei NISHIGUCHI², Hiroko IIJIMA^{1, 2}

¹兵庫医科大学超音波センター, ²兵庫医科大学内科・肝胆膵科, ³兵庫医科大学病院病理部

¹Depertment of Ultrasound Imaging Center, Hyogo College of Medicine, ²Depertment of Internal Medicine, Division of Hepatobiliary and Pancreatic Disease, Hyogo College of Medicine, ³Depertment of Surgical Pathology, Hyogo College of Medicine

キーワード :

【目的】
我々はこれまでVirtual Touch Quantification（VTQ）による脾硬度測定が肝硬変や静脈瘤の予測に有用であることを報告してきた．しかし実際の脾硬度測定時には，測定困難例をしばしば経験するが，それらの要因について検討した報告は少ない．そこで今回我々は，脾硬度の測定不良となる条件について検討した．
【方法】
①＜測定可・不可の基準の設定＞2010年12月から2013年8月に組織的な肝線維化診断がなされ，1週間以内にVTQによる脾硬度測定を施行し得た413例（F0，14例；F1，171例；F2，83例；F3，92例；F4，53例）を対象として，求めたF因子毎の四分位範囲±0.5（m/s）を脾硬度（脾Vs値；m/s）の想定範囲とした．今回の検討では，脾Vs値がこの想定範囲を逸脱した例やX.XX表示例，同じ症例内での測定値の最大値と最小値の差が0.5以上となった症例を測定不可と定めた．②＜測定不可となる条件の検討＞2013年6月から9月にVTQによる脾硬度測定を施行した連続106例を対象として，以下の項目について，測定可・不可での比較をし，有意差のあった項目に関して，Receiver operating characteristic（ROC）解析にて測定不可の診断能を検討した．検討項目：Spleen index（千葉大学第一内科の式）（SI; cm2），ROI深度（cm），腹壁厚（mm），Body mass index（BMI），ROI入射角度，ROI/脾表面角度，脾辺縁とROIの距離（左右上下；mm，ROIの左側に肺の音響陰影を認める場合は脾実質の描出されている部位までの距離とした）．
【結果】
①脾Vs値の四分位範囲（F0，2.3-2.6; F1，2.1-2.6; F2，2.2-2.6; F3，2.3-2.8; F4，2.7-3.5）より，想定範囲を1.6（最小値−0.5）〜4.0（最大値＋0.5）とし，脾Vs値が1.5以下および4.1以上の症例で測定不可とした．②上記の条件では，対象の106症例中測定可63例，測定不可43例であり，測定成功率は59.4％であった．また，測定可・不可による有意差が認められたのは以下の6項目であった；SI（p=0.045），腹壁厚（p=0.013）, BMI（p=0.042），脾辺縁とROI左縁の距離（p=0.002），脾辺縁とROI上縁の距離（p=0.001），脾辺縁とROI下縁の距離（p=0.037）．以上より，脾が小さくROIと脾辺縁が近い場合や肥満により腹壁が厚い場合に測定不良例が多いものと考えられた．上記の項目に関してROC解析したところ，cut off値および曲線下面積は，SI; 16.2，0.640，腹壁厚；19，0.661，BMI,; 22.2，0.638，脾辺縁とROI左縁の距離；9，0.712，脾辺縁とROI上縁の距離；10，0.672，脾辺縁とROI下縁の距離；14，0.620となった．以上より，脾辺縁とROI左縁の距離が最も測定成功率に影響を与える因子であり，脾硬度測定においては肺の音響陰影の影響を強く受ける可能性が示唆された．
【結語】
脾臓が小さい症例や呼吸コントロール不良症例，肥満症例においては脾硬度測定不良例が多く認められるため，上記症例では脾硬度による肝硬変や静脈瘤の診断は慎重に行う必要がある．