英文誌(2004-)
一般口演 消化器
膵臓1
(S549)
膵癌との鑑別に苦慮した高齢男性のsolid pseudopapillary tumorの1例
A case of a difficult differential diagnosis from pancreatic cancer for a high-aged male with solid pseudopapillary tumor
久保 敦司1, 石田 悦嗣1, 友國 淳子2, 吉田 司1, 清輔 良江1, 松枝 和宏1, 山本 博1
Atsushi KUBO1, Etsuji ISHIDA1, Junko TOMOKUNI2, Tsukasa YOSHIDA1, Yoshie KIYOSUKE1, Kazuhiro MATSUEDA1, Hiroshi YAMAMOTO1
1倉敷中央病院消化器内科, 2倉敷中央病院臨床検査科
1Gastroenterology, Kurashiki Central Hospital, 2Laboratory, Kurashiki Central Hospital
キーワード :
【はじめに】
膵Solid pseudopapillary tumor(以下SPT)は,若年女性に好発する比較的稀な低悪性度の腫瘍と考えられている.最近男性例,高齢者例それぞれの報告は散見されており,そのような腫瘍は比較的小さく,被膜や嚢胞成分を伴わないとされている.今回我々は膵癌との鑑別に苦慮した高齢男性のSPTの一例を経験したので報告する.
【症例】
72歳男性
【既往歴】
高血圧
【現病歴】
2013年9月心窩部痛を認め,総胆管結石と診断.截石時に偶発的に膵腫瘤が指摘されたことから精査目的に入院となった.
【腹部超音波所見】
膵体部に15mm大の腫瘤を認め,腫瘤尾側の境界は明瞭であったが,頭側の境界は不明瞭であった.内部エコーは不均一で尾側の主膵管は3mm程度であり,penetrating signは陰性であった.sonazoid造影超音波ではvacular phaseでは腫瘍濃染像を認めなかった.
【腹部造影CT所見】
膵体部に15mm大の結節を認め,動脈相・門脈相では造影効果に乏しいが,平衡相では膵と同程度に濃染していた.また腫瘍部位では主膵管が追跡出来なくなっており,狭窄の可能性があった.
【腹部MRI所見】
腫瘍はT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号,拡散強調画像で高信号を呈しており,MRCPでは腫瘍に一致して主膵管が圧排されているように描出された.
【超音波内視鏡所見】
腫瘍全体はlow echogenicなmassとして描出され,内部に線状のhigh echoを有していた.腫瘍頭側は腹部超音波所見と同様にやや境界不明瞭であった.
【病理所見】
穿刺吸引生検(FNA)で採取した組織は,小型濃染性の円形の核と淡好酸性の胞体を有する腫瘍細胞が,結合性のlooseな集塊を形成しており,膵癌のような腺管構造や内分泌腫瘍のような索状構造は認められなかった.免疫染色ではsynaptophysinが弱陽性で,Vimentin,CD56,β-cateninが強陽性であり,chromogranin A,CK7,が陰性であることからSPTと確定診断された.
【考察】
SPNはFrantzによって最初に報告された分化方向の不明な比較的稀な腫瘍であり,WHO第4版では結合性の弱い,形態学的に均一な上皮性腫瘍細胞が,充実性あるいは偽乳頭状構造を形成する,低悪性度腫瘍と定義される.若年女性に好発する腫瘍であるが,男性例は約13%程度の報告があるが,高齢者例は少なく,腫瘍の境界は明瞭であることから,画像診断である程度の鑑別が可能であることが多い.本症例は70代の高齢であり,かつ腫瘍の境界がやや不明瞭であったことから興味深い一例であった.