小澤 公哉

Koya OZAWA

千葉大学大学院医学研究院循環器内科学

Department of Cardiovascular Medicine, Chiba University Graduate School of Medicine

キーワード :

【目的】
経胸壁心エコー（TTE）2次元（2D）speckle tracking strain（STS）により算出された左室（LV）global longitudinal strain（GLS）の心不全症例に対する予後予測の有用性は報告されている．しかし現在のガイドラインでは肥大型心筋症（HCM）の非心不全症例でTTE 2D STSを用いたLV global strainについての予後予測に関する記載がない．非心不全HCM症例にTTE 2D STSを用いてLV GLS，global circumferential strain（GCS）の計測を行い，同値を用いた主要心有害事象（MACE）発生に対する予後予測の有用性の検討を行った．
【対象と方法】
非心不全HCM連続44例（男性29例，平均年令60±14歳）にTTE（iE-33，Philips）を行い，Q-LAB（version 9.0，Philips）を用いて2DSTSによるLV GLS，GCSの測定を行った．その後MACEの発生を中央値29か月の観察期間で評価した．
【結果と考察】
7例（16％）でMACEが発生した（全死亡2例，埋込み型除細動器植込み例における適切作動3例，新規心不全発症の入院2例）．MACE発症に対するCox比例ハザードの単変量解析で，LV GLSはハザード比1.914（95％信頼区間（CI）1.136-3.227，P=0.015）で有意な因子であったが，LV GCSのハザード比は1.076（95％CI 0.989-1.17，P=0.087）で有意な因子ではなかった．MACE発症に対するCox比例ハザードの多変量解析でも，LV GLSのハザード比は1.966（95％CI 1.039-3.722，P=0.038）と有意な因子であった．TTE 2D STSを用いて計測したLV GLS，GCSによる，MACE発症に対するReceiver operating characteristic curvesでBest cut off値がそれぞれ-9.65％（LV GLS），-29.35％（LV GCS）でArea Under the Curve，感度，特異度が0.822，100％，67.6％（LV GLS），0.687，100％，51.4％（LV GCS）であった．同Best cut off値を用いたKaplan-Meier生存曲線とlog-rank testでLV GLSが-9.65％以上の群は-9.65％未満の群より（P=0.002），またLV GCSが-29.35％以上の群は-29.35％未満の群より，MACE発症に対する予後が有意に不良であった（P=0.011）．
【結論】
非心不全HCM症例においてTTE 2DSTSを用いたLV GLSは非侵襲的にMACE発生に対する予後予測に有用な可能性が示唆された．