Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 循環器
症例報告・心筋梗塞/心室瘤

(S516)

経時的に観察し得た左室仮性心室瘤の一例

A case of left ventricular pseudoaneurysm

畠 伸策1, 山尾 香織1, 江島 恵美子2, 沼口 宏太郎2, 原田 雄章3, 今坂 堅一3, 富田 幸裕3

Shinsaku HATAKE1, Kaori YAMAO1, Emiko EJIMA2, Kotaro NUMAGUCHI2, Takeaki HARADA3, Kenichi IMASAKA3, Yukihiro TOMITA3

1独立行政法人国立病院機構九州医療センター臨床検査部, 2独立行政法人国立病院機構九州医療センター循環器内科, 3独立行政法人国立病院機構九州医療センター心臓外科

1Department of Clinical Laboratory, National Hospital Organization Kyushu Medical Center, 2Department of Cardiology, National Hospital Organization Kyushu Medical Center, 3Department of Cardiovascular Surgery, National Hospital Organization Kyushu Medical Center

キーワード :

【はじめに】
仮性心室瘤は心筋梗塞後の合併症として知られているがその発生頻度は稀であり,破裂の危険性から早期の手術が勧められる.今回我々は,心筋梗塞発症3ヶ月後に呼吸苦を主訴に救急搬送され,心エコーにて左室心尖部に仮性心室瘤を疑い,手術まで経時的に仮性心室瘤を観察し得た症例を経験したので報告する.
【症例】
71歳女性.
【主訴】
胸痛,発熱,全身倦怠感.
【既往歴】
関節リウマチ,高血圧症,糖尿病.
【現病歴】
20XX年3月心筋梗塞を発症.同年6月に42℃の発熱あり近医にてインフルエンザの診断で自宅加療中であったが,解熱後も全身倦怠感,食欲低下が続いていた.6月18日に胸痛と冷汗を自覚し,翌日には胸痛も消失していたが呼吸苦,嘔気が続くため緊急搬送となった.
【来院時現症】
身長157cm,体重56kg,血圧135/84mmHg,脈拍90/分不整,聴診にてⅢ音とⅣ音が聴取された.
【検査所見】
心電図上は心拍148/分の心房細動でV2-V4にてpoor R progression,V2-V6にて陰性T波,Ⅱ.Ⅲ.aVFにて異常Q波を認めた.胸部レントゲン上は心胸郭比72%,うっ血と胸水を認めた.心エコー検査では,LVDs47mm,LVDs26mm,EF=31%,左室壁運動は前壁−中隔—下壁側まで広範囲に無収縮を呈し心尖部は大きく瘤化していた.さらに心尖部外側に突出する36×19mmのecho-free spaceを認めた.echo-free space内側は左室心内膜と連続した隔壁様エコーで一部に10×10mmの欠損部認めカラードプラ・パルスドプラ上も左室内腔と交通するto and froの血流シグナルを認めた.またecho-free space外側は正常心外膜側と連続しており仮性心室瘤が疑われた.CT上も左室心尖部に38×19mmの仮性瘤を認める所見であった.
【入院後経過】
心不全治療後に心臓カテーテル検査を施行した.3ヶ月前に治療したLADとRCAのステント内の再狭窄はなく,また新規病変も認められなかった.その後1ヶ月間,仮性瘤を心エコーにて経時的に観察した.明らかな瘤径の増大は認められなかったが,仮性瘤内は徐々に血栓化傾向を示した.7月に冠動脈バイパス術+Dor手術+僧帽弁形成術が施行された.
【考察】
心筋梗塞後の合併症の1つとして仮性心室瘤があるが,その頻度は稀である.通常,心筋梗塞部の自由壁破裂が生じた場合,心タンポナーデを生じるが,出血が非常に少なく,隣接する心外膜や結合組織によって破裂領域が包含されることで仮性瘤が形成される.しかし真性の心室瘤とは異なり,破裂の危険性や血栓源として脳梗塞や全身の血栓塞栓症の原因となりうることから,発見時は早期手術が必要となる.心エコー上は梗塞部心筋の突然の断裂と,その部位を包むように膜様構造物を認め,この膜様構造物は左室心筋の連続性は認めず,心外膜と連続するとされる.瘤への入口部が狭く,左室から入口部を通過する血流シグナルを検出することで診断は確かなものとなる.本症例では心尖部外側に突出するecho-free spaceを認め,左室心筋の断裂と瘤外側は心外膜と連続する構造が観察された.さらに入口部は狭く,ドプラ法では交通するto and froの血流パターンが記録された.仮性瘤の経時的変化としては,瘤内は徐々に血栓化傾向を示したが手術時はほぼ血栓化していた.また経過中に新たな塞栓症の発症はなかった.
【結語】
症例は通常の心尖部の位置より一肋間下方からアプローチすることで仮性心室瘤を明瞭に描出することができた.通常,心尖部仮性瘤は心尖部の外側に位置すること,セクタプローブの性質上胸壁に近い部位の描出範囲は狭いため,心尖部仮性瘤の検出においては肋間をずらすなど,十分に心尖部周囲を観察することが重要であると思われる.