橋本 剛¹, 鈴木 真事¹, 吉川 尚男¹, 大塚 健紀¹, 早瀬 太一郎³, 山下 裕正², 野澤 幸成², 尾崎 重之², 中村 正人¹, 杉 薫¹

Go HASHIMOTO¹, Makoto SUZUKI¹, Hisao YOSHIKAWA¹, Takenori OTSUKA¹, Taichirou HAYASE³, Hiromasa YAMASHITA², Yukinari NOZAWA², Shigeyuki OZAKI², Masato NAKAMURA¹, Kaoru SUGI¹

¹東邦大学医療センター大橋病院循環器内科, ²東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科, ³横浜新都市脳神経外科病院循環器内科

¹Division of Cardiovascular Medicine, Toho university Ohashi Medical Center, ²Division of Cardiovascular Surgery, Toho university Ohashi Medical Center, ³Division of Cardiovascular Medicine, Yokohamashintoshi Neurosurgical Hospital

キーワード :

【はじめに】
急性心筋梗塞の機械的合併症として，左室自由壁破裂，心室中隔穿孔，乳頭筋断裂などが知られている．単独でも予後は不良だが，今回複合的に機械的合併症を発症した症例を経験したので報告する．
【症例】
症例は90歳代の女性．2日前からの胸部圧迫感を主訴に受診．心電図にて下壁誘導でST上昇を認め，下壁梗塞と診断し緊急カテーテル検査を施行．右冠動脈＃1：100％，左冠動脈＃6：90％，＃12：75％，＃14：75％の所見を認め，責任病変の＃1に対して経皮的冠動脈形成術を施行した．冠血流再灌流後，突然の血圧低下を認めたため左室造影を施行したところ左室から右室への造影剤の流出を認め，心室中隔穿孔を認めた．経胸壁心エコー図検査でも同様の所見認めたが他に有意な弁膜症は認めなかった．外科的治療のため当院へ搬送となり，緊急で心室中隔穿孔閉鎖術・左室形成術・冠動脈バイパス術（LITA-LAD）を施行した．術後は昇圧剤，IABP使用下に治療行っていたが血行動態は保たれていた．しかし，第3病日に急激な血圧低下を認めたため経胸壁心エコー図検査施行したところ新たに後乳頭筋断裂を認め，急性僧帽弁閉鎖不全症の発症を認めた．90歳代と高齢であり再手術は施行できず第4病日に死亡退院となった．
【考察】
急性心筋梗塞に合併する機械的合併症には左室自由壁破裂，心室中隔穿孔，乳頭筋断裂などが知られている．Vlodaverらの臨床病理学的報告（1）によると98例の機械的合併症のうち複合的な合併症を発症したのは8例であったが，心室中隔穿孔と乳頭筋断裂の合併は1例のみで稀であった．急性心筋梗塞の機械的合併症は致命的になることが多く，心エコー図検査による注意深い観察が重要であると考えらえた．
【参考文献】
（1）Z Vlodaver and J E Edwards：Rupture of ventricular septum or papillary muscle complicating myocardial infarction．Circulation　55:815-822，1977