Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 循環器
症例報告・血栓,卵円孔

(S513)

トロンビン阻害薬で消失した総頚動脈血栓症の一例

Successful thrombolysis in carotid artery by dabigatran in a patient without underlying thrombogenic condition

高安 悦子, 宇野 漢成, 古屋 めぐ美, 大熊 理加, 吉田 夏子, 林 直人, 竹中 克

Etsuko TAKAYASU, Kansei UNO, Megumi FURUYA, Rika OHKUMA, Natsuko YOSHIDA, Naoto HAYASHI, Katsu TAKENAKA

東京大学コンピュータ画像診断学/予防医学

Department of computational diagnostic radiology and preventive medicine, The University of Tokyo

キーワード :

【症例】
54歳男性,検診のために来院.既往歴と家族歴は特記すべきことなし.動脈硬化の危険因子:高脂血症(-),糖尿病(-),高血圧(-),肥満(-),運動習慣(+),喫煙歴(+)(30年,20本/日).MRIでは脳梗塞及び頚部〜脳内動脈の狭窄はみられなかった.心電図は正常洞調律で,心エコ一でも特記すべき所見がなかった.頚動脈エコ一で両側の総頚動脈〜内頚動脈において血流速度が正常であった.右総頚動脈には軽度のプラ一ク以外は特に異常なし.左総頚動脈には軽度のプラ一クの外に,分岐部手前において壁に付着する構造物が認められた.構造物内部のエコ一はほぼ均一であり,血管壁とほぼ等輝度であり,可動性もみられなかった(写真左).また,同部位を含め,周辺の血管壁の構造が保たれており,明らかなプラ一クは見えなかった.血液検査にも異常がなく,PET/CTやMRIで悪性腫瘍を疑わせる所見もなかった.まず血栓を疑い,抗凝固療法を開始した.ダビガトラン150mg/回×2回を内服してから1ヶ月で異常構造物の縮小が認められ,3ヶ月目の頚動脈エコ一では異常構造物が消失していた(写真右).経過から考えると,3ヶ月前に認められた異常構造物は血栓であり,かつ比較的新しいものであったと診断した.
【考察】
血栓形成には「Virchow’s triad」:血流の停滞,血管内皮の障害,凝固能の亢進が提唱されている.頚動脈内血栓の一番多い原因は頚動脈内ステント留置であり,頚動脈の血管内皮の損傷と血管内異物の挿入に由来する.ほかに大腸炎など炎症による血管内皮障害と凝固能亢進が原因との報告もある.本症例の血栓溶解後のエコ一図では同部位に血流が正常で肉眼的なプラ一クもなかった.また喫煙歴(すでに禁煙して4年経過),男性,年齢以外に,特に動脈硬化の危険因子を持っておらず,血液検査で炎症の指標も陰性だったため,血栓ができるほどの血管内皮障害を示唆する根拠も乏しかった.さらに,血液凝固能亢進を示唆する結果もなかったため,血栓形成の原因は不明であった.一方,ダビガトランは心房細動による脳塞栓症を予防する効果が認められているが,頚動脈の血栓を溶解する報告はまだない.
【総括】
明らかな血管内皮障害の所見もなく,総頚動脈の直線的で血流異常のない部位に大きな血栓が生じ,かつそれによる脳塞栓症がなく,抗トロンビン薬で完全血栓溶解が得られた貴重な一例として,ここで報告する.