Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 循環器
症例報告・先天性心疾患/三尖弁逆流

(S503)

心エコー検査が契機で発見された先天性左側心膜欠損症2症例とその特徴

Usefulness of echocardiography for diagnosis of Congenital left pericardial defect:report of two cases

河野 裕樹1, 坊 直美1, 中野 学2, 三田村 康仁2, 音羽 勘一2

Hiroki KOHNO1, Naomi BOU1, Manabu NAKANO2, Yasuhito MITAMURA2, Kanichi OTOWA2

1市立敦賀病院医療技術部検査室, 2市立敦賀病院診療部循環器科

1Department of Clinical Laboratory, Municipal tsuruga hospital, 2Department of Cardiovascular Medicine, Municipal tsuruga hospital

キーワード :

【はじめに】
先天性左側心膜欠損は,生まれつき心膜が欠落している状態で,1万人に1人程度の比較的稀な疾患である.本疾患は軽度の胸痛や動悸といった自覚症状を訴えることがあるが無症状であるケースも多く,定期健診の胸部レントゲンや心臓手術,他疾患の検査時に偶然発見されることも少なくない.しかし,欠損口がある程度の大きさであった場合に,心房心室の嵌頓や欠損口辺縁の冠動脈圧迫により,胸痛や失神を起こすこともある.臨床的には,左側部分欠損で左房あるいは左室の嵌頓が起こった場合,数時間から数日で死に至ることがあるため速やかな診断が必要となる.当院にて経験した,心エコー検査が契機となり発見された先天性左側心膜欠損症2症例を報告する.
【症例①】
40歳女性,既往歴に特記すべき事項なし.平成21年5月,定期健診にて心電図異常と右室拡大を指摘された.同年8月初旬より,左側臥位になると増強する息苦しさを自覚するようになり,8月下旬に当院を受診した.
来院時心電図:洞調律の心拍数60bpm,正常軸,V1からV3においてR波の減高を認めた.血液検査:BNPは107pg/mlと軽度上昇していた.
心エコー検査:左室長軸・短軸断面像で拡張期に心尖部を中心に後壁が後方に落ち込み,収縮期には心臓全体が前方に振れている所見を認めた.左室Mモード像で,心室中隔の奇異性運動と後壁の過大運動を認めたが,右側臥位の記録では中隔の奇異性運動は消失した.右室心尖部付近の拡大所見が認められた.
胸部Xp:左側臥位での撮影にて心陰影の左側偏位が見られた.
胸部造影CT:心陰影は明らかに左肺内に突出し,心膜の存在が不明瞭であった.更に広範囲に心膜が欠損し,心臓と肺が直接接している所見が得られた
【症例②】
81歳男性,既往歴に腰部脊柱管狭窄症,発作性心房細動,高血圧あり.平成25年10月,胸背部痛を主訴に当院受診.
来院時心電図:洞調律の心拍数67bpm,上室性期外収縮2段脈,CRBBB,Ⅱ・Ⅲ・aVfにQ波を認めた.
血液検査:BNPは29pg/mlと軽度上昇していた.
心エコー検査:症例①と同様に,心尖部の後方への落ち込み及び心室中隔奇異性運動を呈し,右側臥位記録でそれらが消失した.またこれら特徴的所見は,左側臥位吸気時にも消失することが確認できた.また,右心拡大は認められなかった.
胸部Xp:症例①と同様に,左側臥位で心陰影の左側偏位が見られた.
胸部CT:心膜の有無は確認困難であったが,左肺への突出が確認できた.
【考察】
心エコー検査は,先天性心疾患に対する効果的なスクリーニングツールである.先天性左側心膜欠損症の特徴的所見として,「心尖部の左背方への落ち込み」や「心室中隔の奇異性運動」があり,これらは左側臥位記録で確認でき,右側臥位記録を行うことで消失する.われわれが経験した2例においても,上記特徴を確認できたことから診断へと結びついた.明確な異常所見を有する疾患は,一度経験することが以後遭遇した際の迅速診断への近道となる.
【まとめ】
今回,先天性左側心膜欠損の2症例を経験した.いずれの症例においても特徴的な心エコー検査所見が診断に有用であった.日常遭遇することが稀な疾患も,その存在と特徴を十分認識しておくことが早期診断に繋がると考える.