Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 循環器
症例報告・先天性心疾患/三尖弁逆流

(S501)

冠状静脈洞内に疣腫を認めた冠動静脈瘻の一例

Coronary artery fistula presenting infectious endocarditis :A case report

山尾 雅美1, 2, 山田 博胤1, 2, 西尾 進1, 平田 有紀奈1, 鳥居 裕太1, 天野 里江1, 高島 啓2, 發知 淳子2, 添木 武2, 佐田 政隆2

Masami YAMAO1, 2, Hirotsugu YAMADA1, 2, Susumu NISHIO1, Yukina HIRATA1, Yuuta TORII1, Rie AMANO1, Akira TAKASHIMA2, Junko HOTCHI2, Takeshi SOEKI2, Masataka SATA2

1徳島大学病院超音波センター, 2徳島大学病院循環器内科

1Ultrasound Examination Center, Tokushima University Hospital, 2Depertment of Cardiovascular Medicine, Tokushima University Hospital

キーワード :

症例は64歳女性.主訴は意識障害.既往歴・家族歴は特記事項なし.20XX年2月に突然意味不明の発言が目立つようになったが,原因不明のまま症状は自然に軽快していた.同年4月に尿や便の失禁があり,近医を受診した.経胸壁心エコー検査で僧帽弁および大動脈弁に疣腫を疑う付着物を認めたため感染性心内膜炎が疑われ,精査加療を目的に当院へ転院となった.来院時は問いかけに返答あったが,次第に昏迷となった.入院時血圧90/50mmHg,心拍数120/分,発熱なし,胸部に両側肺野に湿性ラ音あり,心音は心尖部に最強点を有するLevineⅢ/Ⅵの逆流性収縮期雑音を認めた.腹部平坦・軟,圧痛なし,四肢の下腿浮腫あり.血液検査上,BNP(2165pg/dl),WBC(13,600/μl),RBC(185万/μl),Hb(5.6g/dl),PLT(58,000/μl),CRP(5.1mg/dl)であった.BNP高値と炎症反応上昇を認め,高度貧血を伴う播種性血管内凝固症候群の傾向であり,敗血症性ショックの状態であった.心電図では,洞性頻脈,aVL・aVRで軽度のST上昇,Ⅱ,Ⅲ,aVF,V4-6の各誘導にST低下を認めた.胸部レントゲン写真では,CTR 58%,肺うっ血像と,両側胸水を認めた.経胸壁心エコー検査では,大動脈弁の右冠尖,左冠尖に付着する17x12mm大の高輝度な異常構造物を認め,疣腫を疑った.可動性が豊富で,収縮期には大動脈弁を超え大動脈側へ移動するように見えた.僧帽弁後尖の左房側にも約10mm大の可動性が豊富で高輝度な異常構造物を認め,Color Doppler上,軽度の大動脈弁逆流および中等度の僧帽弁逆流(MR)を認めた.肺動脈弁・三尖弁には異常構造物の付着は認めなかった.左室壁の中部〜心尖部前壁〜側壁にかけて,高度の壁運動低下を認め,左室駆出率は35-40%と低下していた.また,推定肺動脈収縮期圧は57mmHgと中等度の肺高血圧を認めた.
精査のため,経食道心エコー検査を施行した.大動脈弁の異常構造物は右冠尖と左冠尖に一塊となっており,大動脈弁開放時に左冠動脈入口部に接していた.僧帽弁後尖(P3)にも可動性に富む複数の頭を持つ塊状エコーを認めた.また,P3弁尖の破壊,弁輪の拡大による中等度のMRを認めた.これらの所見から感染性心内膜炎と診断され,塞栓症のリスクが高いことから手術適応と考えられ,大動脈弁および僧帽弁置換術が施行された.術中所見では,大動脈左冠尖に大きな疣腫が付着し,左冠動脈孔近くまで達していた.右冠尖にも疣腫を認め,左右冠尖交連部は脆弱で疣腫様に見えた.僧帽弁後尖P3の弁輪部およびに対側の前尖A2の弁尖にも疣腫を認めた.更に,冠静脈洞にも疣腫を認め,切除された.明らかな冠動静脈瘻は指摘できなかった.
病理組織学的には,僧帽弁および大動脈弁には,結合組織の増生や炎症細胞の浸潤と新生血管増生を示す肉芽組織が形成されていた.大動脈弁左冠尖は弁破壊が進行し,膿瘍形成や菌塊の付着が認め,感染性心内膜炎に矛盾なかった.
術後も敗血症性ショックの状態は改善せず,同年6月に永眠された.剖検では,左回旋枝は拡張,蛇行し,冠状静脈と連続性を認め,冠動静脈瘻と診断された.
【考察】
冠動静脈瘻に感染性心内膜炎を合併する頻度は全体の10%以下であり,発症するリスクは0.1〜0.4%/年以下と比較的稀であるが,本例のように初発の臨床症状となることがある.冠動静脈瘻治療は手術が第一選択であり,術後合併症に,動静脈瘻の再発や冠動脈拡張,破裂,心筋梗塞などの報告がある.感染性心内膜炎合併例では緊急手術となることが多く,術前診断が重要と考える.
【結語】
冠状静脈洞に疣腫を認めた冠動静脈瘻の稀な1例を経験した.疣腫の存在部位の同定は重要である.