Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 循環器
症例報告・弁膜症

(S498)

非穿通性胸部外傷による大動脈弁閉鎖不全症の一例

A case of aortic regurgitation due to non-penetrating chest trauma

繼 敏光1, 岩永 史郎2, 村田 光繁3, 馬原 啓太郎4, 井上 宗信1

Toshimitsu TSUGU1, Shiro IWANAGA2, Mitsushige MURATA3, Keitaro MAHARA4, Soushin INOUE1

1日野市立病院循環器科, 2東京医科大学八王子医療センター循環器内科, 3慶應義塾大学医学部臨床検査医学, 4日本心臓血管研究振興会付属榊原記念病院循環器内科

1Department of cardiology, Hino Municipal Hospital, 2Department of cardiology, Tokyo Medical University Hachioji Medical Centar, 3Laboratory medicine, Keio University School of Medicine, 4Department of cardiology, Sakakibara Heart Institute

キーワード :

心臓外傷は刺創や銃創など穿通性外傷に起因するものが多く,非穿通性外傷によるものは稀で,心タンポナーデにより急速に死に至ることが多い.非穿通性外傷で大動脈弁に機能障害をきたす症例は少なく,剖検例の0.26%と報告されている.外傷性大動脈弁閉鎖不全は稀な疾患で,本邦では21例の報告しか見つからなかった.我々は,交通事故による非穿通性胸部外傷で生じた大動脈閉鎖不全症を内科治療のみで1.5年間にわたり経過観察できた.症例は62歳男性.生来健康で,毎年の健康診断で心雑音を指摘されたことはない.3年前に,高速道路上で自家用車を運転中に,石がフロントガラスを貫通して前胸部を打撲した.意識はあり,自分で近医を受診したが,異常所見を指摘されなかった.半年後の健康診断で心雑音を指摘され,当院を受診した.心エコー図検査で,右冠尖逸脱による高度大動脈弁閉鎖不全があった.大動脈弁閉鎖不全を来たす他の疾患はなく,外傷性大動脈弁閉鎖不全と診断した.自覚症状はなく,左室径は56/37 mm,左室駆出率は63%であったため,手術適応はないと判断して内科治療を開始した.外来で1.5年間経過観察しているが,左室拡大(左室径62/45 mm),左室収縮機能低下(左室駆出率50%)が進行したため,外科治療を検討している.外傷性大動脈弁閉鎖不全症は右冠尖,無冠尖に多く,左冠尖は有意に少ない.冠動脈のない無冠尖は圧の逃げ場がなく,緩衝されずに高圧が弁尖にかかるため損傷を受けやすく,また,左冠尖は左冠動脈灌流域が広いため,他冠尖より少ないと報告されている.外科治療として,形成術を施行した報告があるが,術後に大動脈弁閉鎖不全を再発している.肉眼的に損傷のない弁尖でも,病理学的に異常があると報告されており,弁置換術が望ましいと考える.Najafiらは本疾患の大動脈弁逆流は受傷直後から急速に悪化すると報告している.しかし,診断までの期間は受傷当日から7年後まで様々な報告例がある.本疾患は緩徐に進行性の経過をたどる症例もあり,注意深い経過観察が必要である.