Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

一般口演 基礎
血流・血管

(S481)

ソノサイトメトリーの基盤技術の検討

Study of fundamental technology of Sonocytometry

小松 洋介1, 長岡 亮1, 船本 健一3, 早瀬 敏幸3, 政氏 伸夫4, 金井 浩2, 西條 芳文1

Yosuke KOMATSU1, Ryo NAGAOKA1, Kenichi FUNAMOTO3, Toshiyuki HAYASE3, Nobuo MASAUZI4, Hiroshi KANAI2, Yoshifumi SAIJO1

1東北大学大学院医工学研究科医工学専攻医用イメージング分野, 2東北大学大学院医工学研究科医工学専攻生体超音波医工学分野, 3東北大学大学院医工学研究科医工学専攻融合シミュレーション医工学分野, 4北海道大学大学院保健科学研究院病態解析学分野

1Department of Biomedical Imaging, Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Department of Medical Ultrasound, Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 3Department of Integrated Biomedical Simulation, Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 4Department of Pathology Analysis, Graduate School of Health Sciences, Hokkaido University

キーワード :

【目的】
個々の細胞を光学的に分類するフローサイトメトリーが広く用いられているが,血液中の細胞測定には血液の採取が必要である.サイトメトリーの原理を生体内で直接応用できれば,赤血球の変性の判別によるマラリアの簡易的診断や白血球の分類等に応用できる.しかし,生体内では光の散乱や吸収が大きいため,光学的手法を用いた観察は困難である.そこで高周波数超音波を用いて非侵襲的に血球の判別を行う“ソノサイトメトリー”という手法を提案する.1 GHzに近い高周波数超音波では個々の赤血球が可視化できるが,深達度が不足し血管内に存在する赤血球の観察は困難である.そこで,深達度が十分な数十MHz領域の超音波を用い,赤血球を直接可視化するのではなく,反射波の周波数スペクトル解析を行うことで,赤血球の大きさや機械的特性による反射の違いを計測する.本研究では,ソノサイトメトリーの基礎研究として,波長と同程度の大きさを持つ球を模擬赤血球として用い,粒径の鑑別および流路中の計測の可能性について理論的および実験的に検討することを目的とする.
【方法】
弾性球状散乱体の解析解であるFaran-Hicklingのモデルを理論値とし,実験値との比較を行った.中心周波数30 MHzのトランスデューサを用い,寒天ゲル中に固定した80,100μmのポリスチレン球からの後方散乱波を観察し,周波数解析を行った.トランスデューサで得られる信号はトランスデューサ自身の特性や媒質による減衰が含まれるので,後方散乱伝達関数(BSTF)を定義した.散乱体と同じ深さにおける平面からの反射波を取得し,後方散乱の周波数スペクトルを反射波の周波数スペクトルで正規化した.これにより後方散乱の近似値を求め,理論値と比較を行った.また,X字の配管を用いてフローサイトメトリー流路系と同様,粒子が一つずつ流れる機構を作成し,水中を移動する球の後方散乱を観察した.静止した状態の球と流れている球のBSTFの違いについてシミュレーションを行った後,個々の試行におけるBSTFと,パラメータを変えて求めた理論値をピアソンの積率相関係数を用いて比較を行った.
【結果及び考察】
静止状態の球に関して,トランスデューサで得られた超音波反射スペクトルはそれぞれの球径において特徴的な形を示した.BSTFは理論値と実験値でピークの一致が見られたが,厳密な一致は見られなかった.これは実験に用いたポリスチレン球の物性が純粋なポリスチレンと多少異なっているためと考えられた.理論値の球径を変えて実験値との相関係数を求めると,80,100μmそれぞれの球径付近で極大値を得られたため,理論値との比較を行うことで球の判別は可能であると考えられた.静止した状態の球と水中を移動する球はシミュレーションの結果通り,同様の後方散乱値を示した.流路中を移動する球に関して個々の試行毎に理論値との相関係数を求めその最大値を求めることで,径の異なる球をほぼ判別することができた.判別できなかった球に関しては前述した物性の違いと,作成した流路を球が流れる際にトランスデューサ焦点からのずれが生じたためと考えられた.
【結論】
毛細血管あるいは細動脈中などのように,血流が遅く血球がほぼ一列になって流れる血管においては,流れによる影響は微小であり,静止している散乱体と同様の後方散乱値を用いて粒径の判別を行ってよいと考えられる.また,超音波波長と同程度の大きさをもつ球の特定が可能であることから,使用周波数を皮下2 mmまで観察可能な200 MHz程度に上げることで赤血球の鑑別が可能であることが示唆された.