名取 博

Hiroshi NATORI

札幌医科大学名誉教授（現職　社会医療法人恵和会西岡病院名誉院長）

Professor Emeritus, Sapporo Medical University School of Medicine

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日本超音波医学会設立の6年前になる1958年に順天堂大学の林，和賀井，宮澤，木暮らは肺腫瘍へ，中谷，石原，内田らは肺結核と結核性胸膜炎への超音波A-mode法の臨床応用について学会報告し1959年には論文が学会誌に掲載されています．空間分解能も時間分解能も十分でなかった超音波画像は判断が難しい波形やイラストで示されていました．海外では1964年にGordonが肺塞栓梗塞に，Joynerらは1967年に胸水診断への臨床応用について報告しています．その後，1970年代の発展については田中元直が^1），1980年代の発展については名取ほかが^2），さらに呼吸器領域全般と気管支内および体腔内走査等の近年の発展と展望については本学会50周年記念誌の第10章呼吸器領域超音波診断のあゆみ - 歴史と今後の展望 - ^3）で紹介していますので御参照下さい．
私は1969年に本学会員となり，腹部領域で肝癌の辺縁低エコー帯について研究した後^4-6），1980年代に自治医大呼吸器内科の吉良枝郎教授のもとで，その技術を呼吸器領域に応用し，本企画の檀原　高・小林英夫両座長，玉城　繁・泉　三郎，ほか多くの門下生と共に本領域の発展に参画する機会を得ました^7-10）．
気道と肺胞の含気および肋骨に阻まれた超音波の視野を，含気を失った肺病変自体や胸水を利用して観察する呼吸気領域の超音波診断を確立し，超音波動画像によるそれらの運動を観察する新たな診断法の臨床的有用性を明らかにしました．今日ではこの超音波リアルタイム動画像監視下の生検や処置が手技の精度の向上と患者の安全に極めて有効であることは呼吸器領域で受け入れられています．この動画像の保存は施術後のインフォームドコンセントにも重要と言えましょう^11）．浜崎らによる含気を失った肺病変内の血行動態をカラードプラ法で観察する臨床応用の報告があり^12），近年の超音波血流モニタリング技術による今後の成果が期待されています．
超音波像の視野拡張が可能になったのは1980年代で，経食道，経気道，血管内走査法プローブの開発に着手し，これらの製品化・商品化前に特殊プローブを用いて研究した自治医大呼吸器内科の共同研究者に加えて，札幌医大呼吸器アレルギー内科の五十嵐知文，中田尚志，ほかの共同研究者による研究経過を参考文献に上げました^13-17）．こうして開発された気管支内ラジアル細径プローブは後に栗本教授の門下による気管支内超音波診断に用いられ，IBUSが確立されました^18-19）．
進行肺癌や慢性閉塞性肺疾患における心タンポナーデや呼吸不全症例の中心静脈圧を下大静脈の超音波動画像計測により非侵襲的に推定する方法は玉城　繁，名取　博，吉良枝郎により1979年に報告されましたが，今日では循環器領域においても近似した方法が使われています^20）．
近年海外では呼吸気領域の超音波診断全般について，第76回日本超音波医学会年次学術集会で呼吸器領域の超音波診断シンポジウム^21）に参加したMathis教授による教科書が充実した第2版となっていることを紹介させていただきます^22）．終わりに，今日では呼吸器領域の超音波診断法は学会でも社会的にも認知されておりますことを文献で見ていただきたいと思います^23，24）．
参考文献
1）田中元直．XIV 超音波検査法．金上晴夫編　新しい検査法からみた呼吸器疾患の診断，克誠堂，第2版，1982; p583-609.
2）名取博，中田尚志，五十嵐知文，ほか．超音波診断法の呼吸器疾患への応用．太田保世，諏訪邦夫，堀江孝至，吉村博邦 編．Annual Review 呼吸器 1987，中外医学社，東京，1987; p 71-80.
3）名取　博．呼吸器領域超音波診断のあゆみ - 歴史と今後の展望 -, 日本超音波医学会50周年記念誌 2013; pp 148-151.
4）名取博，福田守道，石谷邦彦，ほか．肝腫瘍の超音波断層像．日本超音波医学会学術集会講演論文集1971; 19（Suppl）: 69-70.
5）Natori H, Fukuda M, Ishitani K, et al. Ultrasonotomographic findings of the tumor of the liver. Medical Ultrasonics 1971; 9: 74-6.
6）名取博．超音波用語フォーラム 1. 音響学的透明領域（環状辺縁低エコー帯）．Jap J Med Ultrasonics 1995; 716 Jpn J Med Ultrasonics Vol. 38 No. 6 （2011）
7）名取博，玉城繁，泉三郎，吉良枝郎．呼吸器疾患の超音波診断法，1 〜 12，日本胸部臨床 1981; 40: 1-12.
8）名取博，五十嵐知文，中田尚志．8. 胸肺部領域，アプローチ法と正常像，日本超音波医学会編：新超音波医学 第4 巻，第III 部　体表臓器および その他の領域，医学書院，東京，2000; p. 368-75.
9）名取博，五十嵐知文，檀原高．呼吸器超音波医学．伊東紘一，平田経雄 編．超音波医学TEXT．医歯薬出版，東京，2001; p. 2-23.
10）名取　博，五十嵐知文，中田尚志．呼吸器の超音波診断，黒川清，松澤佑次，他 編 内科学，第2 版，2 分冊版 I,　文光堂，2003; 328-35.
11）Izumi S, Tamaki S, Natori H, et al. Ultrasonographically guided aspiration needle biopsy in diseases of the chest. Am Rev Respir Dis 1982; 125: 460-4.
12）浜崎直樹，鴻池義純，善木英一郎，ほか．胸膜下病変に対する超音波カラードプラパワー表示法の有用性．日本呼吸器学会雑誌 1999; 37: 14-9.
13）Natori H, Tamaki S, Izumi S, et al. Clinical application of ultrasound endoscope using linear array transducer for transesophageal ultrasonography of the disease of the mediastinum. In Ed Lerski A, Moley P, Ultrasound ’82, Pergamon Press, Oxford, 1983; p. 339-43.
14）Igarashi T, Natori H, Abe S, et al. Intravascular US in staging of lung cancer. Radiology 1996; 201（P）: 484.
15）名取博，五十嵐知文，鈴木明．肺癌における超音波診断法，末舛恵一，米山武志編．図説臨床「癌」シリーズ No6 肺癌，第3 章　診断，メジカルビュー社，1986; p. 78-90.
16）Nakata H, Mori Y, Natori H, et al. Role of intrabronchial US in the evaluation of bronchogenic carcinoma. Radiology 1997; 205（P）: 677.
17）名取博，中田尚志，五十嵐知文，ほか．肺および縦隔の画像診断法 - 超音波．江口研二，西脇裕 編．癌の画像診断 第2 巻 肺癌，縦隔腫瘍．メジカルビュー社，1997; p. 74- 83.
18）Kurimoto N, Murayama M, Yoshioka S, et al. Assessment of usefulness of endobronchial ultrasonography in depth of tracheobronchial tumor invasion. Chest 1999; 115: 1500-6.
19）Miyazu Y, Miyazawa T, Kurimoto N, et al. Endobronchial ultrasonography in the assessment of centrally located early-stage lung cancer before photodynamic therapy. Am J Respir Crit Care Med 2002; 165: 832-7.
20）Natori H, Tamaki S, Kira S. Ultrasonographic evaluation of ventilatory effect on inferior vena caval configuration. Am Rev Respir Dis 1979; 120: 420-7.
21）第76回日本超音波医学会年次学術集会 http://www.sapmed.ac.jp/jsum2003/
22）Mathis G, ed. Chest Sonography, 2^nd ed. Springer, New York, 2008; p 1-242.
23）名取博．不視而不見．工藤正俊 編．日本超音波医学会第83 回学術集会特別企画「私と超音波」．2010; p113-7, http://www.jsum.or.jp/calendar/meeting/pdf/83th/essay％20113-117.pdf
24）谷口信行．第13回特別学会賞受賞者 名取博氏と超音波医学．超音波医学．2011;38（6）:713-716. http://www.jsum.or.jp/committee/awards/pdf/13_natori.pdf