英文誌(2004-)
特別企画 脳神経
パネルディスカッション 脳神経1脳梗塞におけるエコー検査の役割
(S417)
脳梗塞における頸部エコーの役割
Carotid Ultrasonography in Ischemic Stroke Patients
北川 一夫
Kazuo KITAGAWA
大阪大学大学院医学系研究科神経内科学(脳卒中センター)
Department of Neurology and Stroke Center, Osaka University Graduate School of Medicine
キーワード :
脳梗塞診療においてCT,MRIなどの神経放射線検査と並んで,有用な画像検査が頸動脈超音波検査である.ベッドサイドで施行可能な利点を有し,脳梗塞責任血管として頻度が高く,かつ血行再建術の適応となる頸動脈分岐部の閉塞,狭窄の正確な評価が可能である.頸動脈病変の評価を超音波検査で行う場合には,Bモード画像ととともにパルスドプラによる血流速度の計測が,正確な狭窄率の推定に重要である.脳循環動態に影響を及ぼす結構力学的な狭窄度は70%以上(NASET法)とされるが,内頚動脈血流速度では2m/sec以上に相当することが報告されている.頸動脈超音波検査での内頚動脈狭窄の診断は,ECST法(狭窄部位での血管径との比較)NASCET法(内頚動脈遠位部との血管径の比較)面積狭窄率(狭窄部位での血管内腔面積との比較)で表記されることが多いが,狭窄率は面積狭窄率>ECST>NASCETの順で表記される.血行再建の適応となる狭窄率はNASCET法で規定されている.総頚動脈,内頸動脈の血流速度計測で拡張期血流速度の極端な低下は,内頚動脈遠位部での閉塞,狭窄の存在を想定させる根拠となる.頸動脈超音波検査では,頸動脈狭窄の病変率以外に,プラークの正常診断が可能である.とくにプラークの超音波輝度が低い低輝度プラークで潰瘍形成を伴うものは同側脳梗塞のリスクが高いことが知られている.プラークの超音波輝度測定には,Gray Scale Median法,Integrated Backscatter法が存在するが,我々は頸動脈狭窄に至っていないアテロームプラークでも2mm以上のものであれば,プラーク低輝度は将来の心脳血管イベントと関連することを確認している(Tadokoro K, et al.,投稿準備中).また脳梗塞の前触れ発作とされる一過性脳虚血発作(TIA)は救急疾患としてAcute Cerebrovascular Syndromeとして対応することの重要性が強調されているが,TIA患者で内頚動脈高度狭窄病変を有する例では脳梗塞再発リスクが極めて高く,入院加療することが勧められているので,TIA患者でも迅速に頸動脈超音波検査を実施することが望まれる.頸動脈病変は,食生活の欧米化,糖尿病,メタボリックシンドロームの増加に伴い今後ますます増加することが予想され,頸動脈超音波検査の普及は,脳卒中急性期診療,予防医学両面からその重要性を増すものと考えられる.