Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 腎泌尿器
シンポジウム 腎泌尿器1腎癌の診療における超音波の位置づけ

(S402)

腎腫瘍の診断基準(案)を作成した立場から

Comments from the perspective of published diagnostic criteria for the renal tumor

尾上 篤志1, 沖原 宏治2, 落合 厚3, 平井 都始子4, 秋山 隆弘5

Atsushi ONOUE1, Koji OKIHARA2, Atsushi OCHIAI3, Toshiko HIRAI4, Takahiro AKIYAMA5

1髙橋計行クリニック超音波室, 2京都府立医科大学泌尿器科, 3愛生会山科病院泌尿器科, 4奈良県立医科大学中央内視鏡・超音波部, 5堺温心会病院泌尿器科

1Ultrasound laboratory, Takahashi Kazuyuki Clinic, 2Urology, Kyoto Prefectural University of Medicine, 3Urology, Aiseikai Yamashina Hospital, 4Endoscopy and Ultrasound, Nara Medical University, 5Urology, Sakai Onshinkai Hospital

キーワード :

【はじめに】
腎癌の発生頻度は10万人あたり5〜8人とされるが,嚢胞など良性の腫瘤との鑑別診断までも含めると日常の超音波検査時において非常に良く遭遇する疾患である.その理由は超音波検査が泌尿器系疾患だけでなく腹部・消化器系疾患や婦人科系疾患が疑われる場合にも腎臓も同時に検査されることが多く,健診も含めスクリーニング検査が高頻度で実施されることが挙げられるが,いずれにしても偶発的に腎腫瘤が検出されることが非常に多く実際近年の統計では腎癌検出の8割以上が偶発癌とされている.腎に腫瘤が検出された場合,典型的な腫瘤の場合には鑑別診断が比較的容易であるが,実際の診療の場では偶発癌であることに加え診断機器の性能の向上もあって,より小さな腫瘤として検出されるため鑑別診断に苦慮する.このような状況の中で,泌尿器診断基準小委員会において「腎細胞癌と他の腎腫瘤性病変の鑑別(案)」「透析腎癌の超音波鑑別診断(案)」を作成した.
【腎細胞癌と他の腎腫瘤性病変の鑑別(案)の概説】
腎癌鑑別診断で最初に行うべきは充実性と嚢胞性に分類することである.充実性と判定されたら,形状,境界,輪郭,輝度,内部性状を評価する.典型的な腎細胞癌は円形〜類円形,内部に出血・壊死を伴い,偽膜形成による辺縁低エコー帯を認める.さらに内部に嚢胞壊死や高エコーが混在したモザイク状を呈することもある.ドプラ法は特に腎血管筋脂肪腫との鑑別に有用で,血流の多寡と血管走行により鑑別可能とされる.一方,嚢胞性では嚢胞壁・隔壁に着目し壁に不整や肥厚を認める場合や嚢胞内に充実性部分を認める場合腎癌を疑う.ドプラ法は肥厚した壁や嚢胞内の充実性部分に血流信号が検出されれば腎癌が強く疑われるが,現状では十分な感度とは言い難い.造影法は充実性では腫瘍辺縁から内部に流入する血流が検出できるだけでなく,腎癌と腎血管筋脂肪腫ではその造影効果に差があり,これは内部の血管構築の差を表しているものと推測される.
【透析腎癌の超音波鑑別診断(案)の概説】
透析腎癌は健常者の100倍近い発生率であり,多くの透析施設で腎癌検出のためのスクリーニングが実施されている.しかし,透析腎は単純に萎縮しているだけでなく長期透析によって後天性に嚢胞が発生する.この嚢胞は腎細胞癌と同じく腎尿細管が発生母地とされ,後天性腎嚢胞に発生する腎癌は嚢胞内の充実性腫瘤として検出される.診断上の問題点は腎癌と嚢胞内出血の鑑別で,Bモードによる形態では鑑別でない点と末期腎不全の腎臓は血流そのものが乏しく腫瘤鑑別診断時血流の多寡と血流走行を判定できないことである.造影法は透析腎であっても健常人に発生した腎癌同様十分な造影効果が期待でき,血管の豊富な淡明細胞癌では腎実質よりさらに造影輝度が高く濃染されるため,臨床的価値は非常に高いと考えられる.
【まとめ】
腎癌診断における画像検査法としての超音波検査の役割は大きく,特に透析腎癌の診断において造影法は単に高診断能だけでなく安全性を含め重要な検査法と考えられる.今後さらに超音波検査の診断能向上のためにも造影法の普及が望まれる.