Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 血管
シンポジウム 血管3血管エコー:どのような時に医師に報告するか?

(S393)

腎動脈領域の緊急病変と対応

When and what do you report a renal artery lesion to a doctor?

八鍬 恒芳

Tsuneyoshi YAKUWA

東邦大学医療センター大森病院臨床生理機能検査部

Department of Clinical Functional Physiology, Toho University Medical Center Omori Hospital

キーワード :

【はじめに】
腎動脈領域の血管エコーでは急性腎梗塞や,腎動脈の塞栓閉塞など,早急に対応する必要に迫られる病態を検査する場合がある.通常の慢性腎動脈狭窄検索の検査時にも早急に対応する必要に迫られる病態を捉える場合がある.これら病態の性質を理解し,依頼医への報告など速やかな対応を行えることが,臨床上極めて有用となる.
【腎動脈領域で緊急対応が必要な病態】
緊急対応が必要な腎動脈および腎動脈周囲の病変として主に以下のものが挙げられる.1.急性腎梗塞(腎動脈塞栓による),2.特発性腎動脈解離,3.腎動脈瘤(切迫破裂疑い),4.医原性疾患,これら各種病態について解説する.
1.急性腎梗塞(腎動脈塞栓による)
急性腎梗塞の症状としては,急激な背部痛,腰痛であり,さらに腎虚血のためレニン活性による急激な高血圧などがある.原因としては,心原性の塞栓症が多く,まれに深部静脈血栓症が発端となった奇異性塞栓症によるものもある.多くは腎動脈の分枝に区域的に閉塞を来すため,腎の区域的な梗塞所見を呈する.カラードプラでは腎内の血流シグナルで一部欠損像が診られる.腎動脈の本幹が閉塞すれば,腎全体の血流シグナル欠損像として描出される.急性の腎梗塞がエコーで確定的となれば,塞栓源の推定と可及的な加療を要するため,早急な対応が必須である.
2.特発性腎動脈解離
腎動脈単独の解離である特発性腎動脈解離は非常に稀な疾患である.遭遇する機会は少ないが,近年の画像診断の進歩で報告例は増えている.中年に多く,男女比は4:1で男性に多い.症状は突然の腰背部痛であり,血尿,腎機能障害を伴う.解離により腎梗塞を伴うことが多い.基礎疾患に先天性の血管病変が潜んでいる場合もあり,この場合抗凝固療法はさらなる血管脆弱性による出血のリスクとなるため禁忌であり,同じ腎梗塞でも塞栓が原因か解離が原因かの鑑別は重要である.超音波像は,拡張した腎動脈にわずかにフラップが認められる報告もあるが,超音波では腎梗塞の診断がつくのみの場合が多い.超音波で解離が認められなくとも,年齢,性別を考慮し,腎梗塞=塞栓による閉塞と短絡的に考えず,造影CT等に診断をゆだねることも重要である.
3.腎動脈瘤(切迫破裂疑い)
腎動脈瘤は比較的まれな疾患であり,高血圧,疼痛,血尿を伴うこともあるが,無症候性に経過することも多く,各種画像診断にて偶発的に発見される場合がある.瘤径2cm以下のものは経過観察されていることが多い.しかしながら,明らかな瘤拡大傾向を伴うものや,拍動に伴う著明な瘤口径変動などの所見は切迫破裂の可能性もある.また,瘤周囲に血腫様構造を伴うものは切迫破裂の状態と考えて早急な対応が必要である.
4.医原性疾患
腎動脈形成術(PTRA)時に生じた急性閉塞,動脈解離などはエコーで診断可能な所見である.PTRA後は治療効果判定のために入院中に腎動脈エコーを施行する施設も多いので,これら医原性疾患に注意して観察し,所見を有する場合は担当医師にすぐに報告する.
【まとめ】
主要な緊急性を要する腎動脈領域の疾患と対応方法について述べた.腎動脈領域では緊急対応が必要な病態に遭遇する機会はそれほど多くはないが,それだけに遭遇したときの対処法を知っておくことは重要である.高血圧症患者を検査する場合が多いため,検査中の急変時にも対応できるような環境作りも必要である.緊急対応には医療チーム全体のスムーズな連携が重要であり,院内カンファレンスなども積極的に利用し,臨床にフル活用できる血管エコー検査態勢を整備していくことが肝要である.