Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 血管
シンポジウム 血管3血管エコー:どのような時に医師に報告するか?

(S391)

大動脈領域

artery

小谷 敦志1, 佐賀 俊彦2

Atsushi KOTANI1, Toshihiko SAGA2

1近畿大学医学部附属病院中央臨床検査部, 2近畿大学医学部心血管制御機能外科学

1Department of Clinical Laboratory, Kinki University Hospital, 2Department of Cardiovascular Surgery, Kinki University

キーワード :

1.上行大動脈のflap
大動脈のフラップ(flap)は解離の結果生じ,剥離内膜とも言われる.この大動脈flapが観察されれば解離と診断できる.上行大動脈のflapは,Stanford分類A型,DeBakey分類Ⅰ型,Ⅱ型などの上行大動脈解離で観察される.上行大動脈解離は解離腔破裂や致命的な経過となりやすく,緊急手術を要する.上行大動脈解離を有するStanford A型の予後は極めて不良で,発症から24時間以内の生存率が57%,2週間で43%-80%と報告されている.
2.腹部大動脈のflapの分枝血管への波及
下行大動脈解離(Stanford B型)は,急性期には降圧と鎮痛を中心とした保存的治療の適応となるが,破裂の危険性が示唆される場合,経過中に大動脈径や偽腔の拡大が進行する場合,臓器虚血が発生した場合は緊急手術の適応となる.下肢虚血および臓器虚血,治療抵抗性の疼痛をきたした症例では外科治療が必要とされ,30日間の死亡率は25%と報告されている.
3.大動脈瘤および大動脈瘤切迫破裂
切迫破裂は緊急手術の適応である.非切迫例でも瘤径が5cmを越えていれば,手術治療を検討する.欧米では5.5cmを超えると破裂する可能性が増大すると報告されている.胸部大動脈瘤の拡大率は,瘤の形状や径によって異なるものの,胸部では年間1-2 mm,腹部では年間3-4mmとされ,瘤径が大きい程,拡大が速い.瘤径が4-5 cmの場合は年齢,体重,合併症などを考慮し手術適応を慎重に検討する.嚢状瘤の手術適応について明確な基準は現状では無いが,紡錘状瘤より破裂しやすいとされていて,瘤径にとらわれることなく早期に手術することが大切である.
近年,大動脈瘤ステントグラフト内挿術治療が増えている.術後合併症ひとつにエンドリークが報告されており.ステントの接着不良によって生じるType 1または3では,早期の追加治療が必要とされている.
4.仮性動脈瘤におけるto and fro flow
仮性動脈瘤の原因は外傷,感染,貫通型アテローム硬化性潰瘍(penetrating atherosclerotic ulcer :PAU),医原性などである.なかでも,近年の経皮的カテーテル手術による総大腿動脈の医原性仮性動脈瘤が多い.医原性仮性動脈瘤の診断にはエコーが有用で,仮性瘤と動脈腔との間に交通孔(破裂孔)を有し,周囲が血腫で覆われた袋状の低輝度エコー領域として観察される.交通腔ではto and fro(行ったり来たり)flowを認める.
5.可動性プラーク(mobile plaque)
Mobile plaqueとは,プラークの一部または全体が血管拍動や血流に同期して可動性を示すもので,不安定プラークの範疇に含まれる.不安定プラークは末梢臓器への塞栓源となる可能性が高く,発見した場合は早急な対応が必要である.
6.破綻したプラークの繊維性皮膜の断端によるもの
頸動脈では,プラークが破綻し繊維性皮膜の断端が棍棒状の形態となり,血流に漂い細かな振動として観察される事が多い.胸部大動脈ではPAUが内膜の断端として観察されることがある.PAUは大動脈粥状硬化病巣の破綻で生じ,コレステロール塞栓症となりblue toe症候群の原因となる.
7.塞栓性の急性動脈閉塞
急性動脈閉塞は塞栓症と血栓症に大別される.塞栓症は心源性血栓や動脈の壁在栓子が遊離して末梢動脈を閉塞させる.塞栓症は突然に発症するのが特徴的で,塞栓性の急性動脈閉塞症の症状は,患肢の疼痛,脈拍消失,蒼白,知覚鈍麻,運動麻痺などが挙げられ,発症後6-8時間までに治療を開始することが重要である.
まとめ
医師に報告が必要な血管エコー所見には,動脈の破綻や解離,血栓,可動性プラークなどである.これらの病変は,エコー施行の検者が第一発見者となることがあり,医師への報告が必要となる.