英文誌(2004-)
特別企画 産婦人科
シンポジウム 産婦人科3婦人科疾患の診断精度を向上させよう! −超音波検査法の利点を生かした活用術−
(S338)
会陰から描出する骨盤底と骨盤臓器
Pelvic floor and pelvic viscera as imaged by transperineal ultrasound
中田 真木
Maki NAKATA
三井記念病院産婦人科
Division of Obstetrics and Gynecology, Mitsui Memorial Hospital
キーワード :
産婦人科医による女性ヘルスケアは,必ずしも生殖器の範囲に限定されない広い領域に成長しつつある.女性ヘルスケアの一端を担うウロギネコロジーの領域では,産科的骨盤底損傷,骨盤臓器脱,下部尿路機能障害などを診療する.これらの病態の評価に繁用される経会陰超音波検査の技法と役割について概観する.
骨盤臓器の形態とアライメントを描出するのに最も適するのは,会陰からの矢状断面である.経腟プローブを腟口あたりに,もしくはコンベックスプローブを陰唇の間において描出し,下部尿路,内性器,肛門直腸屈曲,肛門挙筋裂孔などを同定する.
骨盤臓器脱の進展度は,POP-Q記載など,腟や子宮の理学的所見に基づいて記載されるならわしである.ただし,骨盤臓器脱による機能的な不具合のうち排泄に関わる部分は,腟の弛緩というより腟に接する骨盤臓器のぐらつきや変形が関与している.骨盤臓器のぐらつきや変形に関する情報を得るには,動的な経会陰超音波断層検査の有用である.砕石位で,安静時から会陰すぼめ動作,咳払い,バルサルバなどを順次負荷し,可動性や変形の様態を画像に記録する.すぼめ動作ができないこと,すぼめようとすると反対にいきみ動作になってしまうこと,意図的なすぼめにより肛門挙筋の代償的な強い収縮が起こることなどは,いずれも異常所見で,骨盤底動作の問題点は,排泄関係の機能障害や骨盤臓器脱の進行に関与している.
高齢の受診者には,局所の強い違和感を有するが明らかな弛緩や脱出がなく,不具合の所在が明らかでない人が少なくない.このような症例にはしばしば,中腰やしゃがみ姿勢で流出路の脱臼(膀胱頚部から尿道の部分が,回転性に腟からはみ出す)が観察される.流出路の脱臼については,中腰やしゃがみ姿勢での経会陰超音波検査で判定する.
経腟用の3Dプローブを腟口周辺にあててボリュームデータを集めると,肛門挙筋の高さから下の領域で,会陰と骨盤底の支持組織や肛門挙筋をスライス画像やレンダリング画像に描出することができる.角度をかえて連続的な断面を作ると,視触診による断裂,欠損,瘢痕化などの所見を補完することが可能となる.
なお,手もとの検査装置では,会陰からの撮像で,直腸の全周や肛門挙筋プレート高さもしくはそれより奥の領域について十分な観察を行えない.高度の直腸瘤や高いレベルでの産科的損傷,子宮筋腫の併存する骨盤臓器脱の評価には,MRIも併用する必要がある.