馬場 一憲

Kazunori BABA

埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター

Center for Maternal, Fetal and Neonatal Medicine, Saitama Medical Center, Saitama Medical Universit

キーワード :

【はじめに】
胎児は，輝度が大きく異なる羊水で囲まれているため表面表示による3次元像を描出しやすく，胎児を対象とした3次元超音波の利用は進んでいる．一方，子宮や卵巣などの婦人科内性器は，周囲を輝度の差が少ない腸などの臓器に囲まれているため表面表示が困難であり，婦人科領域での3次元超音波の利用は産科領域に比べて大きく遅れている．
しかし，対象物や表示方法を選択することによって，婦人科領域でも3次元超音波を有効に活用することができる．
【3次元超音波の活用例】
1．子宮の前額断面：経腟法による超音波断層法で子宮の詳細な矢状断面と横断面を得ることができるが，子宮の前額断面はプローブ表面と平行に近い断面となるため描出することはできない．一方，3次元超音波では，任意断面構築によって子宮の前額断面を容易に描出することができる．子宮内膜が厚くhyperechoicに描出される分泌期の子宮前額断面は子宮内腔の形状を明瞭に表し，内腔の形状や内部の異物を把握するのに有用である．ただし，子宮は前後に屈曲している場合が多いため，単に断面を表示するよりは，子宮内腔のカーブに合わせて，表面表示，最大値表示，厚い断面表示などの3次元表示法を用いたほうが子宮内腔全体を表示することができる．
3次元超音波は，MRIによる子宮前額断面に類似した画像を外来で短時間で容易に得ることができ，子宮の先天性形態異常の診断に有用である．また，子宮内異物である避妊具の形状や子宮内腔での位置の把握，胚移植時のカテーテル先端の位置の把握に有用である．妊娠初期では，着床部位の確認，特に間質部妊娠と卵管角近くの子宮内腔の正常妊娠との判別に役立つ．
2．子宮内腔の3次元像：子宮内腔に陰性造影剤として生理食塩水を注入するsonohysterographyを併用することにより，子宮内腔に突出した子宮筋腫やポリープの3次元像を描出することができ，大きさ，発生部位，数などを把握するのに有用である．
3．血流の3次元像：カラードプラ法またはパワードプラ法を用いて腫瘤への血流の3次元像を描出することは，腫瘍の発生部位の推定に有用である．
4．嚢腫の3次元像：多胞性に見える付属器の嚢腫を最小値表示や白黒を反転した表面表示を用いることにより，多胞性の嚢腫と卵管留水症との鑑別に役立つ．また，断層像だけでは見逃されてしまうような嚢腫内壁の小さな充実部分を見つけるのにも有用である．
5．体積計測：3次元超音波では，多少複雑な形状をした嚢腫や腫瘍でも，輪郭を手動，あるいは半手動で抽出することにより3次元像を得ると同時に体積計測を行う事ができる．体積計測は，病巣の経時変化や治療効果の判定を正確に行うのに有用である．
【結語】
婦人科領域でも，3次元超音波を活用することによって診断精度を上げることができる．ただし，断層法のように，ただプローブをあてればよいというものではなく，何に使うか，どう使うか，どの表示法を選択するかを考えながら使いこなす努力が必要である．
【参考文献】
馬場一憲．婦人科領域における3次元超音波の意義．馬場一憲編．基礎から学ぶ産婦人科超音波診断．東京，東京医学社；2010. p.240-51