Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 産婦人科
シンポジウム 産婦人科2胎児超音波検査:胎児はどこまでチェックすべきか

(S334)

小児科医から診て欲しいこと

What as pediatritians expect for fetal echography

日根 幸太郎, 与田 仁志

Kotaro HINE, Hitoshi YODA

東邦大学医学部新生児科

Neonatology, Toho University School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
当院では2010年4月から胎児超音波外来を開設し,年間受診数は100名を超える.紹介元は多い順から,地域の産婦人科クリニック・近隣病院産婦人科,院内産婦人科で,総合周産期センターからのセカンドオピニオンもある.検査は新生児科医が行い,疾患の重症度・緊急性を熟知した上で,家族に対し,予想される出生後の管理や予後についても説明する.軽症例では紹介元での分娩も可能である.今回我々が日々の診療の中,胎児超音波検査で小児科医の立場から産婦人科医に診て欲しい,知っていただきたいことについて,いくつか具体例を挙げて述べていく.
【胎児不整脈】
産婦人科からの紹介で比較的頻度が高いのは,心拍数が正常で脈の不整を認める症例である.その多くは心房性期外収縮(以下PAC)や心室性期外収縮(以下PVC)である.約10%に先天性心疾患が見つかることがあるためスクリーニングは重要であるが,PACとPVCの多くは出生後に治療は不要で外来経過観察となる事が多い.一方,徐脈を伴う脈の不整の場合でもPAC with blockなど生後治療が必要ないこともあるが,稀に完全房室ブロックなどの徐脈性不整脈を認めることがあるため,胎児心拍モニターだけでなく,Mモードやドプラーを駆使した精査が必要である.また頻脈性不整脈の場合は週数によっては胎児治療が可能である.胎児水腫の合併の有無,房室伝導やVA時間の評価によって選択する抗不整脈薬が異なることも知る必要があるため専門機関への紹介が必要である.
【先天性心疾患】
四腔断面で異常を認める疾患の紹介例は多い.出生後に治療介入が遅れると重症化する疾患の多くは動脈管依存性心疾患である.その他に小児科医が診断に苦慮する疾患がある.その代表が総肺静脈還流異常症(以下TAPVC)である.出生後にチアノーゼを認めるが,心雑音は認めないことが多く,肺疾患との鑑別を要する.特に胎便吸引症候群や新生児遷延性肺高血圧症と非常に似た臨床経過を呈し,心エコー検査でも診断が困難である一方で生後早期の手術が必要となるTAPVCは,胎児超音波検査では左房への肺静脈の還流を確認することが可能で,生後の心エコーより肺静脈の同定が簡便である.また,心房-下行大動脈距離を用いたTAPVCの簡易な胎児スクリーニング法という報告がある.
【頭頸部疾患】
頻度が高い水頭症の鑑別としてクモ膜嚢胞がある.これはクモ膜と脳脊髄液からなる頭蓋内非腫瘍性嚢胞で脳実質の欠損は認めない.実質を圧排しない小さなサイズのものであれば基本的に生後も経過観察となり治療介入することはないが,胎内で進行性に拡大し実質を圧排するほどのサイズのものは生後外科的治療介入を必要とする場合がある.また,鑑別としてガレン静脈瘤があり,嚢胞性病変に血流を認め,SVCと右房の拡大を認める.
【消化器疾患】
十二指腸閉鎖症は胎児期にdouble bubble signで比較的容易に発見される疾患で,21-trisomyにも合併する消化管閉鎖疾患の1つである.Vater乳頭より肛門側での閉鎖の場合には胎内で胆汁性嘔吐を繰り返すと,羊水中での消化酵素の濃度が高くなり臍帯潰瘍を引き起こす可能性がある.臍帯潰瘍の頻度は先天性腸閉鎖の5-10%とされ,脆弱した臍帯血管から出血をきたすと致死性の合併症となりうることを周知する必要がある.
【結語】
各々の疾患の知識および生後の治療介入の適応など産婦人科医が認知していると質の高い胎児超音波検査を実施でき,生後のスムーズな治療介入へと繋げることが可能となる.患児を取り巻く家族のためにも小児科医との連携が求められ,関連外科,助産師,臨床心理士など多職種の垣根の低い横の連携が理想である.