Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 産婦人科
シンポジウム 産婦人科1出生前遺伝学的検査と超音波検査

(S330)

出生前遺伝学的検査としての超音波検査

Ultrasound examination as a part of prenatal diagnosis

長谷川 潤一

Junichi HASEGAWA

昭和大学産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Showa University School of Medicine

キーワード :

妊娠中に行われる胎児の超音波検査は,なんらかの形態異常がある児が出生し,慌てることなく対応できるように,少しでも妊娠中(出生前)に情報を得ておこうという考えのもと行われはじめた.当初は,胎位や発育の評価程度であったものが,徐々に形態異常の診断が可能となった.そのため,妊娠中期以降に一律に形態異常の有無をチェックするスクリーニングが広く行われている.さらなる超音波機器の解像度の向上に伴って,それは妊娠初期にまで可能となってきたのが現状である.
先天異常は,形態異常を伴うもの伴わないもの,遺伝的な異常を伴うもの伴わないものまちまちである.形態異常は超音波検査で診断可能であるが,遺伝的異常の有無については遺伝学的検査がなされなければ分からない.しかし,一部の先天異常では遺伝的異常に起因する形態異常を呈し,超音波検査による形態異常の診断がきっかけで,羊水検査などの遺伝的検査が選択され,染色体異常などの診断にいたることもある(食道閉鎖からダウン症,小脳萎縮からtrisomy 18など).その一方,形態異常を呈さない遺伝的異常を検出したい場合や,恒久的な形態異常とは言えない超音波マーカーが認められる場合は,遺伝学的検査を施行しなければ診断には至らない.
初期にも超音波スクリーニングが行われることは,本邦でも少しずつ知られるところであるが,しばしば「初期の超音波スクリーニングはNTを測ること」などと誤解されることがある.既に欧米で広く行われている初期の超音波スクリーニングの本質が,形態異常の診断であることはあまり認知されていない.初期の超音波スクリーニングでは,形態異常の超音波診断が最初に行われ,胎児の形態異常が無いということを前提に,希望者にのみ染色体異常のスクリーニング(マーカー検査)が行われる.初期の超音波検査で形態異常があれば,その異常に関する遺伝カウンセリングが行われ,スクリーニングではなく,絨毛検査などの確定的検査が考慮される.超音波検査なくしては始まらない.
初期の超音波スクリーニングがマススクリーニングとして施行されている国がある一方,本邦ではそれは認められていない.NTなどの超音波マーカーは超音波機器を用いて測定されるが,形態異常の診断とは別に,スクリーニング検査のひとつである.しかし日常臨床では,形態異常の診断と染色体異常のスクリーニングに境はなく超音波検査が行われてしまう問題がある.また,超音波で胎児の形態確認ができる妊娠週数以前に,染色体異常の可能性を評価できるNIPTなども入ってきていることから,出生前診断の方法は複雑多岐である.
この境目をはっきりさせることを目的に,当教室では2011年より外来の超音波健診体制を見直した.超音波検査による形態異常の確認,マーカー検査の位置づけを明確に説明し,妊婦の希望を聞くことから外来を始めている.そのため,出生前診断について説明する冊子を作成し,妊娠初期の情報提供を充実させるとともに,遺伝カウンセリング体制も整えた.この外来改変は,妊婦とその家族らに理解しやすく,妊婦の意向に沿ったシステムである.我々は,より良い出生前の情報提供に繋がっていると確信している.
当初は,超音波検査は異常を妊娠中に早期発見し,児の予後改善に役立てるだけのツールであったが,より早い時期に可能となったため,選別にも関連する要素を孕んでいるのが現状である.本講演では,妊娠中の検査として主軸となる超音波検査の役割や,他の遺伝学的検査との関わり,考え方,欧米での現状や当教室での試みなどを述べる.