Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 産婦人科
シンポジウム 産婦人科1出生前遺伝学的検査と超音波検査

(S328)

出生前超音波検査の問題整理

Prenatal Diagnosis:Problems in Japan

増﨑 英明

Hideaki MASUZAKI

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Nagasaki University Graduate School of Medicine

キーワード :

遺伝子診断のための絨毛採取など,いわば困難な手技や特別な説明を要する出生前検査であれば,それに特化した医師によってなされるので,責任もまた出生前診断を実施した医師に求められる.わが国では超音波検査が広く産婦人科医に流通したが,その最大の利点は,経験の浅深に関わらず,プローブを母体に当てるだけで容易に胎児を観察できることにある.胎児には一定頻度で形態異常が存在するから,超音波検査を行えば,否応なく胎児形態異常が見つかる.当たり前のことである.超音波検査を導入したことは,すなわち出生前診断を始めることでもあった.現時点における出生前診断には,以下のような問題が存在する.これらの問いのひとつひとつに,超音波検査を行うものたちは答えなければならないはずである.
1.見える異常か,見えない異常か(対象は形態異常か機能異常か)
2.スクリーニング検査か精密検査か(疑いなのか確定診断なのか)
3.誰が,何を,いつ診断するか(診断のシステムは構築されているか)
4.どこまで診断するか(正常変異や美醜)
5.出生前診断の目的は(治療なのか,中絶なのか)
6.やっていいのか(法的問題)
7.やって欲しいのか(意思確認,カウンセリング)
8.どのくらい確実といえるのか(診断精度)
9.やって好かったのか(長期予後の評価)
10.国としての見解,宗教との相克.
出生前診断は,形態診断であれ機能診断であれ,きれい事だけでは済まされない.医療者が望む望まないに関わらず,人工妊娠中絶と切り離して考えることは体のいい欺瞞である.出生前診断がこの世に出現した当初から,法律および倫理と切り離すことは不可能な問題であった.しかし解決を国にゆだねることには問題がないわけではない.その場合マススクリーニングとして行われかねないし,それは優生思想につながりやすいからである.医学の知識や技術は,そのまま医療に応用されるとは限らない.「やれること」と「やるべきこと」をまずは別の次元で考えて,当面は医療者と受容者とが一対一で対面して真摯に会話することから始めるしかないのではないか.わが国の超音波診断が抱える問題を整理してみたい.