Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 消化器
シンポジウム 消化器4消化管超音波診断の進歩

(S309)

炎症性疾患の超音波診断

Ultrasound diagnosis of inflammatory disease

長谷川 雄一, 浅野 幸宏

Yuichi HASEGAWA, Yukihiro ASANO

成田赤十字病院検査部生理検査課

Department of Clinical Laboratory, Narita Red Cross Hospital

キーワード :

【はじめに】
近年,超音波診断装置の改良によって消化管の詳細な評価も可能となった.体外式超音波検査(以下US)は,非侵襲的で繰り返し施行が出来ること,エックス線診断や内視鏡診断などの内腔面(粘膜面)からの診断とは異なる断層面(貫壁性)の評価法であること,また周囲臓器との関連など壁外の情報が容易に得られることに特徴がある.これに着眼し,炎症性疾患における超音波診断の真価を報告する.
【急性胃粘膜病変】
層構造の保たれた全周性の強い壁肥厚像であり,粘膜層と固有筋層に変化はみられず,第3層粘膜下層の著明な肥厚がみられ,ドプラで線状の血管像が描出される.肥厚の度合いに対し圧迫した際の柔らかさ,壁の伸展性は温存される.壁肥厚は一過性であり症状の軽快とともに消退する.
【胃・十二指腸潰瘍】
局所的な壁欠損(潰瘍)と周囲の粘膜下層を中心とした浮腫性肥厚が消化性潰瘍の特徴像である.十二指腸潰瘍穿孔例での,肝被膜直上のフリーエアーの検出には高周波プローブが適する.
【細菌性腸炎】
系統的走査による罹患範囲の同定により起因菌の推定が可能である.また菌腫により肥厚度合いに違いがみられ,壁径においてO-157腸炎10.3±1.8mm,キャンピロバクター腸炎7.9±1.4mm,サルモネラ腸炎7.4±1.5mmの自験例がある.回盲部リンパ節腫大を伴うことが多い.
【大腸憩室周囲炎】
①腸管壁より突出する低エコー腫瘤像(憩室周囲炎,膿瘍形成像)②腫瘤内高エコー像(浸出物エコー,糞石)③周囲腸管壁(固有筋層及び粘膜下層)の肥厚(周囲消化管への炎症の波及)④孤状の血管像といった特徴により診断が可能である.
【虚血性腸炎】
臨床症状に加え,左側結腸優位に粘膜下層の浮腫性低エコー壁肥厚像が描出されれば診断は容易である.頻度の高い一過性型虚血性腸炎では,すでに再潅流後の状態であり,ドプラ等で壁内の血流は描出される.
【潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)】
炎症が粘膜・粘膜下層表層のみに限局する例では,層構造は保たれ第2層の軽度肥厚を認める.内腔の粘性の強い高エコー像は粘液付着を示し,深掘れの潰瘍を形成する例では第3層の肥厚,低エコー化が顕著となり潰瘍・白苔エコーがみられる.腸管走行を追うことにより罹患範囲(左側大腸炎型,全大腸炎型など)が同定され,典型例では均一な連続性病変を呈する.病期あるいは治療過程においては,評価が困難なこともある.
【Crohn病(Crohn’s disease:CD)】
CDのUS像の特徴は,非連続性の全層性・低エコー性壁肥厚である.UCでは層構造は比較的保たれるが,CDでは多彩な炎症の深達度により,層構造の不明瞭化・消失がみられ,FDsignは縦走潰瘍を示唆する.腸管走行を追うことにより罹患範囲(小腸型,小腸大腸型,大腸型)が同定される.瘻孔や膿瘍,狭窄などの合併症の評価にも有用である.
【まとめ】
USは複雑な前処置を必要とせず簡便であり,侵襲性は低く,迅速かつ的確に炎症の深達度診断や活動性を評価できる.また,腸管の走行に沿って全層性,壁外合併症の評価が可能であることに優れている.炎症性疾患を経験することの多い急性腹症においては,USがファーストチョイスの検査法として矛盾しないが,USの特性を理解したうえでの適応疾患の選別,一方でUSに適した疾患でさえ検者による技量差により診断が左右されることも理解しておかなければ,その地位を脅かされかねない.