Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 消化器
シンポジウム 消化器4消化管超音波診断の進歩

(S309)

腫瘍性疾患の超音波診断-目標とすべき診断レベル-

Ultrasonic Diagnosis of Gastrointestinal Tumor -The goal that shoud be accomplished-

岩崎 信広

Nobuhiro IWASAKI

神戸市立医療センター中央市民病院臨床検査技術部

Clinical Laboratory, Kobe City Medical Center General Hospital

キーワード :

【はじめに】
消化管腫瘍性疾患は口腔から肛門までの広範な部位に様々な病態が発現する.また,消化管は内腔側から順に粘膜,粘膜筋板,粘膜下層,粘膜下組織,輪走筋,縦走筋,漿膜下結合織,臓側腹膜(漿膜)から構成され,腫瘍性疾患はいずれの層からも発生し得る.その発生から上皮性腫瘍,非上皮性腫瘍,リンパ系腫瘍,カルチノイド腫瘍,転移性腫瘍に大別される.これら腫瘍性疾患の診断法として内視鏡検査やX線造影検査,CT検査をはじめとして様々な検査法が挙げられる.その中で超音波検査は非侵襲的でリアルタイムの評価が可能であり,first stepの検査法として位置づけられるようになってきた.しかし,術者依存性も高く,独自の診断基準や価値観を基に検査が行われている場合も多く,確立された診断法とは言い難い現況にあるのも事実である.今回,消化管腫瘍性疾患に遭遇した際の超音波診断の進め方やピットフォール,スタンダードとすべき超音波検査の診断レベル,さらには他の画像診断法と比較してアドバンテージとなるポイントについても呈示したい.
【超音波診断の進め方】
消化管に腫瘍性病変が認められた場合,大まかな検査の流れとしては,①局在性の評価②腫瘍の形態学的診断③周囲の評価④病態診断の順となる.これらの過程においては主観的な評価を行わず,得られた所見を客観的に評価し,整合性がとれない所見に対してはその矛盾点について更なる情報の収集を行いながら検査を進めて行くことが重要である.
【診断レベル】
消化管腫瘍性疾患の超音波診断において,我々が目標とすべき診断レベルは腫瘍の形態分類や局在性の評価に加え,病期分類の決定に繋がる壁深達度やリンパ節転移,腹膜転移,肝転移など他臓器への転移の有無についても可能な限り評価し,さらに,腫瘍による腸管閉塞や浸潤の様態から早急な外科的処置が必要か否かなど,治療方針の決定や予後についても客観的事実と理論的根拠を持って臨床に情報を提供することである.
これまで“pseudokidney sign”と一括りにされていた消化管腫瘍性疾患の評価を臨床が必要とする診断レベルまで引き上げることでその診断法としての価値は飛躍的に向上し,必要不可欠な診断法としての地位を獲得できると考えられる.
【画像診断におけるアドバンテージ】
消化管疾患においては直接病変を可視し,組織を採取できる内視鏡検査が優れた検査法である.しかし,小腸疾患に対してはその解剖学的位置から上部・下部内視鏡検査では評価が困難となる.近年,カプセル内視鏡やダブルバルーン法を用いた小腸内視鏡検査の進歩により,小腸疾患においても組織の採取や質的診断が可能となってきているが,熟練した技術や装置の普及などルーチン検査の域には達していない現状にある.したがって,小腸疾患における超音波診断体系の確立が大きなアドバンテージとなる.また,超音波検査は分解能,リアルタイム性に優れており,蠕動運動や内容物の動きなど機能的な評価も可能で,腫瘍性疾患においては内部構造や周囲への浸潤や癒着の状態を動きからも評価でき,圧迫による腫瘍の変形から弾性を評価することも可能である.さらに超音波カラードプラ法は腫瘍内の血管構築や血流速度,方向性などの血流情報を可視化できる唯一の手法であり,血流動態的評価を最大限に活用すべきと考えられる.
【結語】
超音波検査は消化管腫瘍性疾患に対しても高い診断能を有しており,必要不可欠な検査法である.今後も診断法の標準化や更なる診断体系の確立を目指していくべきと考えられる.