Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 基礎
シンポジウム 基礎2超音波医学におけるバブル-基礎から応用まで-

(S276)

相変化ナノ液滴による超音波生体作用の制御性向上およびその治療応用

Control of ultrasonic bioeffects by phase change nanodroplet for therapeutic application

川畑 健一1, 丸岡 貴司1, 浅見 玲衣1, 佐々木 一昭4, 梅村 晋一郎2, 蘆田 玲子3

Ken-ichi KAWABATA1, Takashi MARUOKA1, Rei ASAMI1, Kazuaki SASAKI4, Shinichiro UMEMURA2, Reiko ASHIDA3

1日立製作所中央研究所メディカルシステム研究部, 2東北大学大学院医工学研究科, 3大阪府立成人病センター消化器検診科, 4東京農工大学農学部共同獣医学科

1Medical Systems Research Department, Central Research Laboratory, Hitachi, Ltd.,, 2Graduate Shchool of Bioengineering, Tohoku University, 3Department of Cancer Survey, Osaka Medical Center for Cancer and Cardiovascular Diseases, 4Faculty of Agriculture, Tokyo University of Agriculture and Technology

キーワード :

【緒言】
現在,PETにとどまらず,MRIなどの既存の画像診断装置に関しても,組織選択性造影剤および造影システムの研究・開発が盛んである.超音波診断装置は,手術室などに持ち込めるほど小型で,かつリアルタイムな画像化が可能なことから,超音波を用いた組織選択的なイメージングは,治療支援等において利用価値が高いと考えられる.さらに,超音波は,診断のみならず治療へも応用可能なことから,例えば超早期でがん組織を可視化し,その部位を選択的・低侵襲的に治療する早期診断・治療システムにつながることも期待される.我々は,このような腫瘍の診断・治療統合システムを目的とし,高い造影能を持つマイクロバブルと,高い腫瘍到達性を示すナノ微粒子のそれぞれの長所を両立するため,体内投与時はナノサイズの液滴で,超音波パルスにより目的部位のみで気化しマイクロバブルを生成する,造影剤および造影システムの開発を行っている.相変化ナノ液滴(PCND)と名づけたこのような造影剤は,部位選択的にマイクロバブルを生成し,かつ,音響キャビテーションの核および超音波加熱作用の増強剤となることがわかった.このような特性を活用すると,超音波の生体作用を制御性良く生じることができ,より低強度でかつ高スループットな超音波がん治療につながると期待される.今回,これまでに得られているin vitroおよびin vivoでの検討結果について報告する.
【実験方法】
相変化ナノ液滴(PCND)は,C5F12と,C6F14をリン脂質と共に高圧乳化を行い,直径約400nmのサイズとしたものを用いた.in vitro実験では,PCNDをポリアクリルアミドゲルに封入して検討を行った.またin vivo実験では,主にColon 26実験腫瘍を皮下に移植されたCDF1マウスを対象とした.超音波照射は,PCNDからのマイクロバブル生成用パルスと超音波生体効果生成用の連続波を交互に照射するシーケンスにより行った.標準的な条件は,周波数:1MHz,パルス強度:3 kW/cm2,パルス長:200サイクル,連続波強度:50-300 W/cm2である.
【結果と考察】
1.HIFU治療:担癌マウスを用いた検討により,PCNDを10mg/kgのdoseで静脈投与することで,PCNDは腫瘍に集積され,かつ上記標準照射条件での照射により有意に腫瘍増殖を抑制することがわかった.これに対し,PCNDなしの超音波単独では,ほとんど効果が見られなかった.超音波照射時の対象からの音響信号計測により,PCND共存下の超音波照射により,キャビテーション生成およびそれに続く温度上昇が著しく促進され治療効果が生じたと考えられた.
2.組織構造破壊型DDS:PCND原液を1/100に希釈し,生体組織に局所投与し,超音波パルスを3 kW/cm2,300 Hz, 100 Hzの条件で照射することで組織構造が破壊されることが,マウス腫瘍,ウサギ腫瘍および肝臓ならびに腎臓において確認できた.超音波単独およびソナゾイドを用いた実験では組織構造は観察されなかった.さらに,ゲルを用いた検討から,本組織構造破壊はPCNDと共存された薬剤を所定領域に拡散させる効果を有することがわかった.これらの知見より,局所投与PCNDとパルス超音波の組み合わせは新規な超音波DDSとして有望であると考えられた.
以上のように,PCNDは超音波がん治療の新たな可能性を開くものであると期待される.
【謝辞】
本発表の一部は,日本超音波医学会の研究開発班活動の一部として行ったものである.