Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 基礎
シンポジウム 基礎2超音波医学におけるバブル-基礎から応用まで-

(S274)

気泡のダイナミクスと安全

Bubble dynamics and ultrasound safety

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科

Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

微小気泡を用いる超音波造影法は,重要な手技として超音波診断に広く利用されている.また微小気泡は,超音波加温治療や薬剤の効果促進などにおいて重要な役割を果たすことが広く知られ,超音波治療においても注目を集めている.同じ微小気泡を,生体作用を与えてはいけない診断と,作用を与えなければならない治療で使い分けるには,気泡のダイナミクスを良く理解する必要がある.
音叉が特定の音階に共振するように,気泡も特定の周波数に共振する.共振周波数は気泡径によって決まり,造影剤の気泡直径は,診断用超音波に共振する数ミクロンに設計されている.肺野などを除き,一般に生体内には共振径の気泡は存在しないが,キャビテーション核と呼ばれる共振径よりも格段に小さい気泡は存在する.診断用の短パルス超音波を共振を外れた気泡に照射しても,気泡が吸収するエネルギーは小さく,気泡は僅かな膨張・収縮しかしないので周囲に作用を与えることはない.しかし,治療のために持続時間の長いバースト波を照射すると,キャビテーション核は膨張・収縮を繰り返しながら次第に成長する[1].気泡が共振径近くまで達すると,気泡は超音波のエネルギーを効率良く吸収して急激に膨張し,続く急速な収縮時に崩壊する現象,イナーシャルキャビテーションが生じる.繰り返しバースト波を照射する場合,気泡は照射時に成長し,休止期には拡散により収縮する.収縮した気泡が僅かでも初期状態より大きければ,いずれ共振径に達してイナーシャルキャビテーションが生じ,僅かでも小さければ,どれだけ長時間照射しても生じない.キャビテーションの発生は,このような閾値を持つ現象である.
共振径の気泡は超音波のエネルギーを効率良く吸収するので,造影剤気泡は持続時間の短い診断用のパルス超音波の照射下でも強く膨張・収縮する.診断装置の出力指標であるMechanical Index(MI)は,共振径の気泡がすでに存在する場合にイナーシャルキャビテーションが生じる可能性の程度を表す.超音波の波形は,診断用のパルス超音波を想定している.最近,音響放射圧を利用するARFI(Acoustic Radiation Force Impulse)画像法が開発された.この方法では,従来の診断には用いられなかった長いバースト波を照射して画像化に必要な音響放射圧を得る.共振径の気泡は効率良くエネルギーを吸収するので,バースト波の音圧が低くてもイナーシャルキャビテーションを生じる可能性が高くなる.それゆえ,MIはARFIの出力指標とはならない.また,造影剤気泡は投与後最大24時間体内に残存する可能性が指摘されている[2]ので,ARFIを用いる場合には,それ以前の造影剤気泡の使用の有無について十分留意する必要がある.
今後も微小気泡の利用技術は進化し,特に診断と治療の融合領域において有効性を発揮していくものと考えられる.気泡のダイナミクスの理解とその制御,さらに細胞との相互作用の理解がますます重要になる.
1.Crum, LA. Acoustic Cavitation Series: Part Five Rectified Diffusion. Ultrasonics 22(5):215-23(1984).
2.Barnett, Stanley B, Francis Duck, and Marvin Ziskin. Recommendations on the Safe Use of Ultrasound Contrast Agents. Ultrasound in Medicine & Biology 33: 173-4(2007).