山口 匡

Tadashi YAMAGUCHI

千葉大学フロンティア医工学センター

Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University

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超音波断層画像を構成するエコー信号は，生体内において様々な強度を持つ散乱波が干渉し合い，多数の経路を伝搬した結果として集積されている．例えば，超音波断層画像の大きな特徴のひとつにスペックルノイズがあるが，これは生体中に密に存在する多数の微小散乱体からの多方向への微弱な反射信号の干渉結果であり，生体内に照射する音波の分解能に応じた広がりを持つノイズパターンである．スペックルは当然ながら，照射される超音波の周波数や強度などの違いによっても変化するが，その性質を決定する要因として最も強く影響するものは観察対象となる生体組織における散乱体の物理的性質や構造である．
そこでこれまでに，エコー信号のパワースペクトルや減衰率を基準として，生体組織中の局所的な領域における散乱体の個数や大きさなどを推定する手法が多数提案されてきた．また，エコー信号を統計解析することで，散乱体構造の均質性や散乱体密度を推定する研究が推進されており，すでに臨床応用もされている．
更に今日では，それらの数学的・計算機科学的技術と物理的・病理学的知見とを融合し，多種の技術を複合的に用いることで，肝臓における線維化および脂肪沈着の度合いの推定や，リンパ節におけるがん転移の判定，血液中の血球成分の凝集度の算定などを行うことが可能となっており，それらの精度向上と多種の生体組織への応用についての研究が推進されている．